Black moon V







試合が終わったは既に会場を出て歩いていた。

「…っ!!」

後ろの方から蓮の声が聞こえた。

は黙って振り返ると、軽く息を切らした蓮がこっちに向かって来ていた。

「…。」


「…、お前に聞きたい事がある…。何故ここに無魂刀がある?」

無魂刀。

「…。」

「答えろ、…。」

のピアスは黒色になっていった。

「…。」

!」

は否定もせず肯定もせず、黒色の瞳で黙って蓮を見据えるばかりだった。

その沈黙に蓮は苛立ちを覚えた。

「貴様、いい加減に…!!」

「……………の癖に…。」

「!?……?」

蓮が怒鳴りつけようとしたその時、微かな声では呟いた。

微かの声の為に蓮には聞き取る事が出来なかった。

、今なんて…。」

「――…蓮は何も知らなくて良いの…。」

突然が声を発した。

そして、蓮の名を呼んだ。

…!?俺を覚えているのか!?」

蓮に問いに対し、は嘲りを含んだ笑いを向けた。

「忘れる訳が無いじゃん…。ずっと探してたんだから…。」

「…?」

蓮がの尋常じゃない気配に気が付いた。

するとは足を踏み出した。

「――…でも…もう遅い…――。」



言い終えるとは蓮に被さる様に倒れ込んだ。

「!?…!?」

蓮が反射的にを受け止める。

気絶したようだったが、すぐには目を覚ました。

「――…う……っ…?」

!?大丈夫か?」

蓮がに話しかけると、は覚醒したばかりの虚ろな目で蓮を見上げた。

「…ん…あれ?蓮君じゃない?どうしたの?」
        
「…!?」

蓮は驚いたが、すぐにに問い返した。

、貴様さっき…。」

「うん?…あれ?私…今まで何してたんだろ?」

今さっきの会話を、たったの数分前の事をは忘れていたのだ。

何事も無かったかのように。

するとはありがとう、と一言言って髪を梳いた。

「…ごめんね〜。私ってたまに自分で何してたか覚えてない事があるんだ〜。ドジでしょ?」

苦笑しながら蓮に謝る

蓮はとりあえず話を合わせる事にした。

「…気にするな、たまたま通り掛った所で貴様が放浪していたのだ。」

「そうだったの?あはは…試合までは覚えてたんだけどなぁ…。」

照れ隠しも含めた笑みを浮かべる

蓮は記憶にある幼い頃のとを照らし合わせていた。

「また迷惑掛けちゃったね。ゴメンね〜。じゃぁ、そろそろ行くから。」

「あぁ…。」

手を振って駆けて行くを黙って見送る蓮。

だが彼の中には疑問という名のモノが渦巻いていた。

彼女は何故、彼の事を『蓮』と呼び捨てにした時は黒色だったピアスが、『蓮君』と称した時には白色のピアスとなっていたのだろうか?


「――…でも…もう遅い…――。」


が発した、蓮が理解の出来ない言葉。

の残した形無き疑問と、形を知らない矛盾した現実。

走ってゆく彼女の後姿、耳に揺れる真っ白なピアスが日光によって一層輝いて見えた。