ああーもう…

うざいったらうざいったらうざいったらうざい!!


何でこうなるの!?






C u p i d !







「あたしは、恋のキューピッド。」
「…は?」

ある日突然、あたしの目の前に現れた小さな人間。いや、それは人間と呼んでいいものか躊躇われる。
なぜなら、その体調は僅か三十センチほどしかなかったからである。
キレイで透明な羽を持ち、其れは今はたたまれているが、先ほどは其れを使い、自分の体を宙に浮かせていた。

つまり、飛んでいた、と言うことである。

「キュ、キュ…―――!?」

ぱくぱくと口を動かすことしか出来なかった。恐怖と驚きとで声などでようはずもない。
第一キューピッドって…。

「あなたの愛する人は誰?恋愛成就、します!」
「え!?ス、スキな人…?!」

パニック状態にありながらも私の頭にはしっかりと一人の人間が浮かんでいたのだった。

『恋愛成就、させますよ!』

なんとも甘い誘惑。そんなの一人しか居ないに決まってるじゃない!!




「あたしの好きな人はネジ。…本当に恋愛成就なんてするの?」
「ええ。それが私の仕事だからね。分かりましたネジさんね!」

自称キューピッドの小人は部屋の天井までひゅっと飛び上がると、それじゃあいきましょう!といった。

「いきましょう?」

勝手にやってくれるんじゃないんですか?

「ええ。誰か教えてもらわなきゃ恋の矢が打てないわ。」
「そ、それって…」

キューピッドさんの恋の矢とやらが刺さる瞬間、あたしも立ち会うということ!?

「そ、んな、勇気ないよ!」
「何を言ってるの!ほら、早く行きましょう!」

わけも分からず、キューピッドに背中をどつかれてそのまま勢いで外へ出た。





































「ネーーーーーーーーーージーーーーーーーーーーー!!」

ネジ宅に着いた二人は、取り合えずネジを呼ぶことにした。

「何だその長い呼び方は」「えー、ちょっと声の続く限り叫んでみようと思って…」「近所迷惑だ」



つーかネジ冷たいよ。 いつもこうだろう。



なんとなく寂しい気分になる。他の男子に比べて明らかに悪い反応。…ちょっと辛かった。

「で、なんか用か?」
「あ、その、あの〜…」

言いながらがキューピッドを見ると、彼女は矢を選んでいるらしい。
オイオイ、ココに来て時間かけるなよ…!


「あ、えーっと…なんだっけな。」
「――――…用がないなら閉めるぞ?」
「ちょ、ちょっと待って!今思い出す…ええとー…」


五分後。
流石に立つのも疲れてきた。ネジは明らかに不審な目でこちらを見ていた。さすがにこれ以上待たせるわけにはいかない。

「えっと…」
「取り合えず中はいるか?」
「え。いいの?」
「(もしかしてコイツこれを狙ってたか…?)」

そう言うわけではなかったが、取り合えずは救われた。

ネジが家に入っていく瞬間、先回りしたキューピッドが矢を彼の心臓めがけて思い切りはなったのだった。
キューピッドは親指を立ててこちらにウインクすると、とりあえず様子見ましょうか、といっての肩に止まった。




「…!」

突然ネジがビクンと肩を振るわせたので、驚いては先ほど入れてもらった茶の入った湯のみを落としそうになった。

くるり、とネジがこちらを振り返る。なにやらいつものネジと違う。

「…??」

わけも分からず、とりあえず湯のみを置いて(何故か危険なにおいがしたので)ネジから一歩遠ざかった。

「……」

何もいわずにネジはズンズンとこちらへ歩いてくる。一歩、また一歩…も遠ざかる。だが、此処は室内である。いずれは壁にぶつかる運命だ。
トン、と固い感触が背中にしたのを感じたは、迫り来る恐ろしいネジを恐怖のまなざしで見ていた。



「(え、何、何なのあたしなんかした!?)」


しました。


ネジは、の前に立ちはだかると
包帯の巻かれた腕を後ろの壁に突き出した。

「えっ…?」














、もう逃げられないぞ」















………は?

は笑んだままの顔で硬直した。

ネジが。

あの

クールで

冷酷で

いつも宗家とか分家とか言ってるネジが。



「……笑った。」



それも、怖いくらいにっこりした怪しい笑みで。

の目はネジのうでとネジの顔とを言ったりきたりしていた。この状況にパニック状態なのである。
は、本能でネジの腕から抜け出した。
間一髪、追いかけたネジの手はの肩をかすったが、を捉えることは出来なかった。


…」


ネジは寂しそうな顔で、縁側から走り出したを見ていた。

「そうか、。よく分かった。」

そして、真顔で呟いたのだ。


「お前、鬼ごっこがしたかったんだな。」



何がよく分かったのか、甚だ疑問ではあるが。

そう言うと、ネジはすぐさま靴を履いての後を持ち前の身体能力で追いかけ始めた。
がそのことを知るのは数分後である。










「…はぁ…助かったぁ…」

とりあえず自分の家に全速力で駆け込んだ。その後姿をネジがしっかりばっちり捉えていたことは知る由もない。

「疲れたー…」
「俺も疲れたー…」




え。



隣を見ると、自分の横にいつの間にかネジが寝転んでいた。不覚にも玄関に鍵はかけていなかったのだ。

「ネジいつからここにいたのッ!?」
「は?俺はいつもの傍に居てを見てるぞ」

いやそれストーカーだから。

突っ込む気力も失せたので頭の中で突っ込んでおいた。


「此処はあたしの部屋。分かってるよね?」
「分からずに入ってくるわけがあるまい」
「女の子の部屋に勝手に入っていいと思ってんの?」
、どうかしたか?こんなこと俺とお前の仲なら日常茶は―――「失せろ」


は冷たくたったの三文字でネジを黙らせたのだった。
そんなネジは黙りこくっている。寝そべったネジはそのままうつ伏せになり、うんともすんとも言わなくなってしまった。

としては清々した…ハズなのだが。心に引っ掛かってしまう。ずるい、ネジは。
ただうつ伏せになって黙っているだけであたしの心はネジにしか向かなくなってしまうのだから。

「(ちょっと言い過ぎた…?)」

そう思って、うつ伏せのネジに顔を近づけたときだった。



グィッ



「あ、わ、ちょ、ちょっと!!」




途端にネジに



組み敷かれた。




、やはりお前は最高だ…!心配してくれるなんて優しいじゃないか…」
「は?何言ってんの!?」
「其れはこっちの台詞だ。あんなに寂しそうな顔して…」
「え?なんで分か――――」






ああそうか。


才能の無駄遣いか。




後ろも見えるなんてずるいし、こんな時に使うためのものではない。
応用力がありすぎだ、と、はネジの天才さを改めて、身にしみて感じた。

「ちょっとー…天才のネジ様?離していただけませんか。あんたは大変重とう御座います。」

一向にネジはどこうとしない。それどころかじっとこっちを見ていて視線をそらそうとすらしない。

「あのー…」

そこまで言って、はもう言うのを止めた。正直な気持ち、ずっとこうしていたいとも思った。

好きだから。

好きな人にこんなことをされたら普通なら嬉しいはずだ。
オマケにネジのことだから、恋の矢でも打たれなきゃこんな行動は間違ってもしないだろうと思った。

今は、彼の瞳は自分だけに向けられている。
その優越にもう少しだけ浸っていたいという、なんとも利己的な欲に負けてしまいそうだった。


その時。







、どうしてそんな顔をしている?
 俺はこんなにもお前が好きなのにお前は俺を好きじゃないのか。」







あ…


ちがう。


ちがうんだ。











こんなんじゃない。











ちがう、ネジはこんなに簡単に「好き」なんて言葉、絶対に言わないもの。
一瞬でも嬉しいと思った自分のヴァーカ!






しっかりしろ私!






「嫌だ、嫌いよ嫌い!今のネジなんて大嫌い!ネジは…あたしの好きなネジは…!
そんな簡単に大事な気持ちをいったりしなくて…でも優しくて…。今のネジはネジの格好した違う人よっ!!!」



ネジから聞けばとんだ迷惑である、が。

今のネジは確かにいつものネジとは百八十度違っていた。何処もかしこも違っていた。
そう、に対する態度も。


、俺は俺。ネジだよ。」
「ちがうもんっ!」

子供のように、は首を振り続ける。

「キューピッドさん…助けて…ネジを元に戻してよッ…」





「本当にいいの?」

光景を見ていたキューピッドが、至極寂しそうな顔で聞いた。

「このまま、彼に好かれたままでいなくていいの?」

心が揺らいだ。…でも、こんなのネジじゃない。
こんなネジならあたしは…冷たくてもいいから、前のネジがいい……!


「楽してネジと両思いになりたいなんて…もう思わないよぉ…だから戻して…お願い…。」


そう言ったあたしに、キューピッドはもう問いをしなかった。

「わかった。それじゃあ、本当に打つわよ。そーれっ!!」

黒い矢が、ネジめがけて飛んでいく。そしてネジの背中にぐっさりと刺さったのが見えた。



「ネジ!離してよ、ネーーーーージッ!!……」


ネジの目が、一瞬見開かれたのがよくわかった。途端にの上から体をどかすネジ。

「お、俺は?なぜの部屋にいる。なんでを…」
「あ。それ以上言わないでください。」

ちょっと顔を赤くした二人は暫く無言だった。








そんな時、再び肩にもどったキューピッドがにささやいた。

「もう、矢の効果はありません。だから、貴方の思いをぶつけてみたらどうです。」

キューピッドさんの一言が、あたしの心に一直線に突き刺さる。




「言わなきゃ分からないことだってあるんですから…ね?」


静かに頷いた。心臓が口から飛び出そうだ…。















「ネジ、あたし…………ネジのこと…スキ!!」


あたしはもう目を伏せたのだった。

そしたら、ネジの声が上から降り注いできて。




「……俺は…―――――――」










その後の真相を知るのはキューピッドだけだった。
ただ、キューピッドはにっこり微笑んでいたという。


























貴方の元にも来るかもしれないキューピッド。

貴方はどうしますか?