アカデミーを終え、修行を終え、気付けば回りは真っ暗で、薄い雲の向こうから月光が下界を照らしている。 疲れて早く家に帰りたいが、その前に雑貨屋によってあるものを1セット買った。 今年も、何だかんだでもうこの日で。 あの事件が起こって、家族と一緒に祝うことがなくなってからは、ずっとアイツ等が祝ってくれている。 毎年毎年人の家に入り込んできては騒がしくして帰っていく。 オレにとってはそれが結構嬉しかったりする。 アイツ等はもう家の中に要るだろうか? 家の前まで来て、ふとそんなことを考えた。 「(カギはちゃんと閉めてんだな……)」 やはり既に合鍵を使って中にいるようで、既に靴が一足玄関に並んでいた。 一足…?じゃあ、もう一人は買出しか何かだろうか。 なにやら庭のほうでごそごそ物音がする。…もう外か。 サスケが庭のほうに歩いていくと、目を引く赤い髪がちらと見えた。 「…ん?あ、サスケおかえりー。そんでもって誕生日おめでとう!」 気配で気付いたらしい彼女が、サスケのほうを振り返る。 「お前もな。」 は縁側に座って毎年恒例となっている「行事」の準備を進めていた。 「相変わらず好きだな、それ。」 ふ、と笑うようにサスケが言うと、悪びれる様子も無くは言う。 「そーそー。毎年代わり映えしないけど、許してくださいねー」 「いや、寧ろいいと思うけどな。…楽しいし」 「そお?良かった良かった。あ、そうそう篝炎は用事でこれなくなったってさ」 「…そうか。寂しくなるな。」 「いっつも三人だったもんね。」 毎年、篝炎と、サスケと、の三人で祝うことが当たり前になっていた、サスケとの誕生日。 今日は二人だけだと知っただけで、サスケの鼓動が少し早くなった。 「ようっし!準備できたよ!」 「やるか。」 「うんっ!」 サスケは、その嬉しそうに笑う顔が見れるだけで十分だと密かに思う。 蝋燭の火をもらって棒の先から火が勢いよく飛び出す。 そう、サスケの誕生日にやるのが恒例となっているのは花火なのである。 キャーキャー言いながら楽しそうに花火を振り回す。 今自分がどんな顔をしているのかはよくわからないが、楽しい。 幼馴染だからだろう。普段は隠してしまうような表情が、ポンポン出てくる。 「私が持ってきたやつはこれで終わりだよ。…サスケは、まだ残ってる?」 「…ああ、まだある。」 先程雑貨屋で多めに買ってきたはずの花火は、既に残り一つになっていた。 「線香花火、あるぜ。」 線香花火に火をつけると、先程までの雰囲気とは一変、急に静かになる。 お互いも何となく無言になり、聞こえるものといえば、 吊るされている風鈴が夏風に身を揺らして奏でている、涼しげな音くらいなものだ。 そんな中、おもむろに口を開いたのはだった。 「ねーサスケ、知ってる?」 「…?」 「線香花火って、最後までこの赤いのが落ちないと、願いが叶うんだってさー」 「願い、か…」 「うん。だから、サスケも願い事してみれば?」 頷いて、サスケは思いを馳せた。 何を願おう?…誰のことを…? 「はもう決まってんのか?」 「うん。内緒だけどね!」 その言葉を聴いて、性格には“声”を聞いて、心が決まった。 “オレの大切な人が、笑顔でありますように。” 素朴な願い。だがサスケにとっては、大きな願い。 篝炎が……そしてが、せめて自分のせいで笑顔をなくすことがありませんように。 ずっと、笑顔でいて欲しいから。 その笑顔が見れれば、オレも幸せだから…。 「何か、今思うとさ……。」 またが口を開く。線香花火は、もう少しで終わりを向えそうだ。 「そうやって、線香花火の玉が落ちなかったとか、流れ星が見れたとか、それも確かにキセキに近いけど… 私達みたいに、365もある日付の中でおんなじ日に生まれてきたのも、そもそもキセキみたいなもんじゃない?」 二人きりだからこそ、言える言葉ばかり。 「でもってこんなに仲良しなんだから、何か運命感じるよね!」 自分で言って恥ずかしくなったのか、あはは、と半分誤魔化すように笑いを付け加える。 聞いてるサスケのほうが、何倍も恥ずかしいが。 「ってことで、これからもよろしくね、サスケ。」 「こちらこそおねがいします。」 わざとらしく丁寧に言った様が面白かったらしく、はコロコロと笑った。 思いがけない笑顔に、サスケは顔が赤くなるのが分かった。 間近で、笑う。…きっと気付いていないだろう。その笑みがこんなに人を幸せにしていることを。 「「あ。」」 そして二人同時に声を上げた。 「え、もしかして」 「お前もか…?」 お互いの手元を、思わず確認する。 「…二人とも、ついたまんまだ……。」 線香花火は、玉をつけたまま燃え終わっていた。 「願い事、叶うと良いなー。」 「だから結局、何なんだよ。」 焦れったそうにサスケが聞くと、はニヤりと笑って、 「ひーみーつー」 「そんくらい良いだろが。」 「じゃあサスケの教えてくれる?」 の言葉に、サスケは自分の願い事を思い出してしまった。 ひとりでに熱くなる顔が、恨めしい。 「なーに一人で赤くなってんのさ!おっかしいのーサスケ!」 バシ、と背中を叩いてが言う。 「…ッせえな!オレのは…簡単に口に出せるほど軽い願いじゃないねーんだよ。」 「ふーん?」 「(信じてねーな…)」 何時までも面白そうに返答するを見て、自分の願いは現在進行形で叶っているのだと実感した。 「あーッ…朧月も風情があっていいですなー」 「じじくさいこと言ってんな。」 おもむろに空を仰いで寝転んだは、何時の間にか、そのまま寝ていた。 「…年は一緒でも…行動はオレよかガキだな…。」 そこものいい所だと、サスケはよくわかっているのだが。 を負ぶうと、まだ時間がそれほど遅くないことを確認して、蘭の家に連れて行くことにした。 背中で身じろぎしたが、うーんと小さく唸ってから、ぼそりと呟いた。 「来年も……一緒に…お祝いしたい、な………」 火奈のそんな寝言に、プ、と思わず笑いを漏らす。 「…自滅じゃねーか」 背負ったを心底大切に思いながら、家までの道をなるべくゆっくり歩いた。 「来年も一緒に決まってんだろ。」 が、小さく笑った、気がした。 手には何も残らない でも、今はとても幸せです +++++ あとがき 悩みに悩んでアイ設定! アカデミー生で、9〜11歳程度だと思っててください。細かいところはきにしなーい。 サスケが、淡いながらもさんに恋心を持ってるといいなぁと……。 サスケお誕生日おめでとう!遅くなったけどマジでおめでとう! っていうか生まれてきてくれてありがとーっ! 060729 *輝月 |