高一の春下旬。

いままでロクな告白をされてたことの無かったあたしが
何故か学年でもカナリ人気の高い男子に行き成り告白された。

おまけにそいつのプロポーズの仕方が

「お前が好きだからさ、お前もオレんこと好きになれよ」

ナルシスト。あたしの一番苦手なタイプ。
その時は勢いで振ったけどそれからそいつはストーキングするようになって、
何かとあたしの傍にいるようになったのだった。








































け屋敷奮闘記










































今日の予定はあたしと共に祭りに行く友達しか知らない。
そう、知らないはずだったんだ。
あたしの情報にやけに詳しいあいつでさえも
あたしの友達がもらしさえしなきゃ…
絶対に知ることなんか無いはずなんだ。















なのに、目の前にはあいつが。





「よぉ、奇遇だな。もしかして運命?なんちゃってー」



何が奇遇。
何が運命。


余裕そうなその笑みから、待ち伏せしていたことはすぐわかる。
あたしの今日の予定をコイツに教えたやつ…
判明したら半殺し決定!!



「あははー、そうだね、それじゃばいばい。」



早く立ち去るのがいいんだ。
そしてこいつが視界に入らないところまで
とにかくどこかへ去ってしまおう。


「そーいうなっての。ほら、お前の友達も他の男にナンパされてんぜ?
 お前もこのままあそぼーぜ。」
「な、何言ってんの!」
「あ、ー!ちょっとちょっと!」



友達の一人に呼ばれた。
……この展開は、もしや。



「あたしたちあの人たちとちょっと遊んでくるからさー、
 も丁度御柳くんといい雰囲気じゃーん?だからここからは別行動ってことでー」



語尾にハートがついてるよ!!






っていうか ち ょ っ と ま て 。




「あたしと芭唐がいい雰囲気ってどういうこと!?
 っていうかあたしと芭唐を二人にする気!?
 あたしが芭唐のこと苦手なの知ってるくせにー!!」
「いいじゃんいいじゃん、たまには相手してあげなって」



言い終ると共に友人は走り去っていきましたとさ。




……背中に悪寒が走る。





「お、なんだかそう言う流れじゃん。ほら、いくぜ」
「ってうわ、ちょっと待ってよ!」



いきなり手首を掴まれて、ぐいぐい引っ張るからこけそうになった。
こっちは浴衣!ちょっとは考えろっての……。



「ちょっと芭唐。」
「………」
「(シカト?)…ねぇ芭唐。」
「………」
「おーい、バーカラ」
「………」



いくら呼んでも返事をしない。
それどころか人ごみを押し分けてどんどん先に進んでいく。
手をつかまれていなかったら、直ぐにはぐれそうだった。


さすがにここまでシカトされると頭にくる。




「ねー…なんで返事してくんないのさ…。」
「いつものお前の真似。」
「……え?」



いつもあたしが芭唐にやってることの真似?



「あはは、そ、そんなの――」
「う・そ。もうちょっと名前呼んでてほしかっただけだって」







芭唐は振り返ってあたしに笑みを投げかけると、
もうちょっと先、と言ってまた歩きだした。






…あたし、芭唐に普段すごい酷いことしてるような…気が…。


だってあたしは別に芭唐が好きなわけじゃない。
だけどあんなふうに知らん振りされて
自分が呼び止めるのも聞いてもらえないとしたら
それって凄い悲しいことじゃん…。




ちょっとだけだよ。
でも、反省した。




なんだか暗い気分になって肩をすぼめたら
よっぽどあたしが小さく見えて
いつもより芭唐が大きく見えた。







「着いたーっと…」


やっと止まった…
そう思ってあたしは顔を上げた瞬間青ざめた。



「まって…芭唐が連れてきたかった場所って……」














お化け屋敷――――……!!?














「ま、夏の風物詩ってやつじゃん?入ろうぜ」


ノリノリの芭唐を前にあたしに拒否権は無かった。


















「やだし……あたしお化け屋敷とか苦手なの知ってる…?」
「知るわけねぇだろ。」
「(知らないわけないじゃん…)そ、そう。」
「ほら、はいんぞ!」


半強制的に入り口から押し込められて、後戻りすることは
あたしのプライドが許さなかったのでもどれなかった。

……こういうときばっかり邪魔なプライドめ!

でもこんなに人がいっぱいいるなかで
入る入らないをキャーキャー言い合ってたら
それこそあたしたちがカップルみたいじゃん!!



真っ暗な道を歩いていくだけでももう立っていられなくて、
本当にしょうがなくて、しょうがないから
芭唐の腕にしがみつくようにして前へ進んだ。



…芭唐は、相変わらずフーセンガムを膨らましながらなんだか楽しそうに見えた。




















































「ね、これ芭唐だよね?」
「他に何だっての」
「い、や…気がついたら隣におばけがー……なんてことにならないかと……―――ッ!!」



ッ、キャー!!



本日何度目の悲鳴だろう。
其の度に何でもいいから近くのものにしがみついてしまうというのは
やっぱり誰でもあることなんだよ。きっと。

ただあたしの場合はそれが芭唐だってだけで……
けして深い意味は…無いよね。




「おー、こりゃまたリアルな……こえーかぁ?」
「ちょ、そんな見せなくていいから!は、早く先行こうッ!!」
「はーいはい、意外と怖がりなんだな、。」


にやり、と笑った芭唐の顔は不敵な笑みとしか取れなかった。


けど、次の瞬間あたしには

そんな笑みを読み取るような余裕は消え失せたのだった。





――……いぃゃぁあああああぁぁああ!!





ちょうど向かい合って話していた芭唐の後方に、
上から生首が落下してきたのだった!


「もうやだぁあぁあ!!」


あたしは無我夢中で走っていた。
怖いから、目を瞑って。


「お、おい!?」


あわてて呼び止める芭唐の声が一瞬聞こえたけど、後戻りできなかった。


「はぁ…はぁ…あたしどこまで来たんだろ……」


何時までも目を瞑って走るわけにも行かず、流石にいくらか来たとこで
目を開けて今居る位置を確認しようとした。


前後は真っ暗だった。


「え…どうしよう…芭唐は…置いてきちゃったんだっけ…」


薄っすらと緑色のライトが当たっているせいで
あたしの居る通りは暗いけど深緑に不気味に光っていて
怖さを倍増させた。
あたしはもう怖さのあまり、座り込んでしまった。
腰が抜けたように、そこに崩れ落ちた。


怖い……こういうところだめだって言ったじゃん…

こういうことになるから……お化け屋敷なんか来たくなかった。








一人に、しないで…!












「おい!!」


膝を抱えて泣いていたあたしの耳に届いたのは、
もう聞きなれた声だった。
それと同時に、肩を抱く感覚があって。

酷く安心したのだけは、よく分かった。


「おま…な、何泣いてんだ!」
「だって…一人で怖かったんだよ…っ」
が勝手に走って行くからだろー…んとに…」
「ごめん…でも…来てくれて嬉しかった…」
「……だって泣くじゃんか。」

「え?」



腫れた目で芭唐を見上げる。


「だから。お前ってまじで怖いとこだめだろー?
 迎えに来てやらなきゃここで泣いてるじゃんか。」


まるで知ったような口ぶり。

……やっぱり、知ってたんだ。



「知っててつれてきたわけ!?」
「あっヤベ………はぁ…。まぁこうなることは予想外だったけど。」
「あたりまえ。予想範囲内だったら殴ってるよ!」
「はは…やっと元気になった。」
「え……」



笑った芭唐に一瞬戸惑わせられた。


「ほら、立てよお姫様。」
「んなっ……!…」


やっぱりこいつは苦手なナルシスト。
でも今、何でコイツが学校であんなにもてるのかやっと分かった気がする。


一流なんだ。

かける声は一つ一つ色っぽくて
する行動はなんだか意地悪だけど
何時の間にか芭唐のペースにはめられてる。


そして、あたしも。



「……あたしも!?そ、そんなッ」
「?何言ってんだよ、ほら行くぜ」
「あ、待って待って!」


差し出された手を仕方なくとって、立ち上がる。

やっぱり怖いから、また腕にしがみつくけど
今度はちょっとドキドキする…。

ヤバい。本当に好きになりかけてる。



「ねぇ、芭唐」
「なんだよ」
「さっき“あたしの真似”って言ってたけど、あれ嘘じゃないでしょ」
「……違うって言ってんだろ?」
「ううん、違うわけ無い。ごめんね芭唐。」



なんで、素直に謝れたんだろう。







芭唐は急に立ち止まったから吃驚して体制を崩した。

「な、急に立ち止まらないでよ!」
「え、あ、ワリ……」
「……?」
「(こいつから謝るなんて……!)」

芭唐がどれだけ驚いているかも知らずに。























































「あぁあああああああああああああぁぁ!!おわったぁーー!!」


そしてお化け屋敷は遂に出口を迎えた。


「怖かったし……知っててつれてくるし…」

ちらっと芭唐に目をやると、なんだよと呟いた。

「てゆーかお前…いい加減離してもいいんだぜ?」

芭唐の視線をたどると、そこには
芭唐の腕にしっかりとしがみついているあたしが居た。

「え、あ、離すわよっ!」

あわてて離したけど、その手はなんだか行き場を失っていた。

不意に、其の手にぬくもりを感じる。


「………!」


芭唐の手とあたしの手はしっかりつながれていた。


「お前さ、言うけど…」
「……?」
「やっぱオレと付き合う気、無いわけ?」





屋台の明かりがかすんで見えるほど、
あたしは芭唐から視線が逸らせなかった。

心臓の音が耳に響くくらい大きく鳴っていて邪魔で
繋いだ手も熱くなってくる。






「あんたねぇ…あたしと付き合おうなんて百年早いの。」
「百年もたったらオレ達死んでるぜ?」
「揚げ足とるな!……とにかく、付き合うなんて早いの!」
「じゃあ…いつなら付き合えるんだよ。」
「……それは、もっと芭唐と一緒に居てから決めること。でしょ?」


あたしは芭唐を見上げて笑った。

芭唐はやっぱり不適な笑みで返してきた。



「は、そのうち其の余裕な発言も出来なくなるぜ。」
「どうだか。」
「すぐおとしてみせる」



あたしは意地っ張りだから。
もう、おとされてるなんて死んでも言わない。



「ほら、あれお前の友達だろ?…今日はここらでオレはずらかるとしようかな」
「あ、うん。」
「あ、ー!」
「じゃな」



何もいえないまま、芭唐の背中を見送った。



「何、あんなこと言ってたくせに御柳くんといい雰囲気じゃん。」
「ちがう、芭唐に無理矢理お化け屋敷に連れて行かれただけ。」
「はは、でもさっきまでの結構幸せそうだったけどなー」



実際そうだと思う。
でも、まだ芭唐のことは知らないことが多すぎる。
そんなんで本気に好きになれるなんて、



「ありえないよ。」



だから、今は、誰にも秘密のままで。

























来年の祭りには、どうなってるだろう。















































今から楽しみだな。






























































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あとがき

好きな人の事をろくに知りもしないのに「好き」とか言う人は
絶対本気で好きなんじゃないと思う。
と、まぁそんな気持ちです。

夏っぽく作ってみました♪
ちなみに輝月もお化け屋敷は大の苦手です。氏にます。

*輝月