仲の良い友達。


言ってみればあたし達はそんな関係で、それ以上でも以下でもなかった。

お互いのことを特別に見たこともないし、見られたこともないし。

アイツは軽い軟派ヤローだからすぐ女を引っ掛けたり(容姿がいいから尚更)

授業サボって屋上でぐーすか昼寝日常茶飯事だった。

けど、根は悪い奴じゃないってことも、長い付き合い上知ってる。

あたしとアイツはずっと変わらない関係のままだった。

……これからもずっと、変わらない関係のままだと思ってた。














































 か な い 手 紙

















































「おはよう、ばか……」



芭唐、彼の名を呼ぼうとしてあたしは立ち止まった。

芭唐の隣には顔見知った隣のクラスの女子が寄り添うように歩いてた。

どうしてだろう、いつもなら隣からひやかすのに。

彼の顔があまりに幸せそうな顔をしていたから



本気なんだ、と思った。



彼女は可愛くて小さくて、芭唐のタイプの女の子だった。

今迄芭唐が女子と歩いているところは何回も見たことがあるけど

こんな風に手を繋いで登校しているのは初めて見た。



いつになく真剣な恋愛をしてるなら芭唐を邪魔するのも可哀想ってもんだし?

ちょっと様子見でもして後で詳細聞いてみようかな。



……その時胸のあたりがきゅうっと締め付けられるような感覚になった。












―――なんでこの時に気付かなかったんだろう。

なんでもっと早くに気付いていなかったんだろう。












「おい …」



呼ばれた相手は声でわかるけど、なんとなく振り向きたくない。



「ねえ 、理科室一緒に行こうよ」



芭唐の声を遮るようにして隣にいた友達に話しかける。

どうしてその時芭唐を無視してしまったのかはわからない。

今は話したくなかった。頭の中がぐらぐらして、車に酔ったみたいだった。

何も考えたくない。



理科室についてからも、珍しくあたしたちは一言も言葉を交わすことは無かった。



それから一日、あたし達は必要最低限の言葉意外、交わさなかった。

どうしてかわからない。最初に向こうを無視するようなことをしたのはあたしだったけど

何でか、あたしのほうが凄い寂しかった。

長くて辛い一日に思えた。




「おい、お前今日整備委員の仕事あるだろ、逃げずにちゃんとやって帰れよ。

 あともう一人の整備委員もちゃんと残らせて二人で掃除しろよ。」



担任に言われた言葉であたしの頭は真っ白になった。

忘れていたんだ、芭唐とあたしは一緒の整備委員に入ったことを。

別におかしいことじゃなかったし。仲のいい友達ならそれくらい普通“だった”し。


けど今、二人きりになるのは何よりも気まずいことだった。



「…芭唐、今日整備委員は掃除当番だってさ。」

「え、お、おう。」



……普段なら、そーだったな、ちゃっちゃと終わらすか位のテンションで取り掛かるのに。

無言でブラシをとって、教室の隅から履き始める。

何か話さなきゃ。グランドから聞こえてくる野球部の声がかすかに聞こえてくるだけで、

それ以外の人の気配はどのクラスからもしなかった。



「ねぇ芭唐、今朝歩いてた女の子ってさぁ、新しい彼女?」



いきなり話題を振られた芭唐は驚いたように顔を上げた。





よ り に よ っ て 最 悪 の 話 題 を 振 っ て し ま っ た。





新しい女だって。興味本位でナンパしたって。

そういってよ、お願い。





「……あぁ、そうだよ。隣のクラスの奴…。野球部マネージャーなんだけどよ。

 オレも前からいいなって思ってたし…。何か今迄と違う気分。」






今ここに立っていられるのが不思議だった。

さっきよりも酷い、酔いのようなくらくらする感覚。

思わず取り落としたブラシが床にバウンドして硬い音を立てる。





「おい、大丈夫で……」

「あー!この仕事、芭唐に任せた!!」

「……は!?」

「ごめん、あたし今日美容院行かなきゃ行けなかったの思い出した!」

「お前何言って…オレに仕事押し付けていくつもりか!」

「…どうせ彼女と帰るんだから遅くなっても大丈夫でしょ。じゃ、がんばってね。」





ブラシをとることもせずに、あたしはもう教室を後にしていた。

バーカ。

自分で自分に言った。





家に帰ってからは、自分の部屋に閉じこもるようにしてベッドにダイブした。

勉強なんて手につくはずも無い。音楽さえかける気力が無い。





……今、頬を伝うものは何だろう。

悔しい気持ちと、胸を切り裂くような気持ちと、そして何より、愛しい気持ち。

全部ひっくるめて混ぜ合わせて、こぼれだしていた。



「……好き」



誰に聞かれるわけでもなく、その言葉は自分の部屋に浮かんで消えた。

虚しさだけが残った。



あたしは、好きなんだ。

芭唐のことが好きなんだ。





………こんな気付き方、




…したくなかったよ……






ケータイを手に取ったけど、【新規メール作成】まで選択してやっぱり切った。

取り出したのは、ペンとレターセット。

一番お気に入りのピンクのペン。水色の手紙。



伝えたい気持ちがあふれてた。



手が追いつかなくて何回も頭を落ち着けた。

言いたいことがまとまらなくて何回も同じことを書いた。




好きだよ。

本気の彼女が出来て悔しい。

別れてほしい。

でも芭唐には幸せで居てほしい。

あたしのこと好きじゃないとしても

あたしは一生芭唐が好き。

芭唐が誰と付き合っても

芭唐があたしのこと嫌いになっても


きっとあたしは芭唐が好き。


大好き。




始めにどんな文章で書き出したかなんて覚えてない。

思ったままに書いて、結果的に四枚も紙を使った。



「……こんなの、渡せないや。」



荒れた文字、ところどころ涙でにじんだインク。

そしてあたしの想い。

こんなの渡したら、付き合いだした芭唐に少なからずショックを与えてしまう。

……渡すことなんて。



それでも封筒にしまって糊付けして。

ゴミ箱に捨てることは出来なかった。

いつかこの想いが思い出と呼べるようになる日まで。





書いた文字の量はアンタを想うあたしの気持ちの量。

書いたことも無い四枚もの手紙を握りしめて、

出てくるのはただ涙と…あいつの名。



「芭唐ぁ………」












きっといつになっても絶対に








アンタへ届かない手紙を握り締めながら。




































































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あとがき

哀愁祭りに出品させていただいた作品です。

数々の素敵作品が並ぶ中大変恐縮でした…( ̄▽ ̄;)

とりあえず一番好きな芭唐を、と書いてみましたが撃沈した作品です。


*輝月