雪がちらちらと降り始めた。これって初雪?…いや、こないだ夜中に降ったんだっけ。


小さな小さな雪の結晶が、地面に当たっては直に溶けて消えてなくなる。

この分じゃあ、雪が積もるまでは行かないか……。




目の前には、行きかう人、人、人。


皆雪が降ってきたことに気付いて、少し歩みを速める。

どこかで、店前の呼び込みの声が聞こえる。「クリスマスセールで只今10%OFFでーす!」

クリスマスなんて、まだ半月以上先のことなのに。


段々人が増えてきて、手には傘を持った人のほうが多くなった。


「…はァー…」


吐いた息が、白い。

さっきまで雪なんて降ってなかったんだから、傘の一つも持っていない。

指先はコートのポケットに入れているものの…冷たい。冷たすぎる。



あー、あたし、こんなところで何してるんだっけ。



えーっと…そうそう、家にいたら何だか急に寂しくなって、それでぶらぶら歩いてて。

でもやっぱり行くあてもなくて、結局通りの脇に腰を下ろしている有様。


…コートから手を出して、凍るように動かなくなった指先に、そっと息を吹きかけた。




そのとき、いきなり頭の上に手が置かれた。視界の端に、水色の模様の着物が映る。



「おじょーさん、何してるんですかこんなところで。あーあ、頭に雪被っちゃってるし。」


そういってそいつはあたしの頭を軽く払う。顔を上げると、見慣れた顔がこちらを見下ろしていた。

片手にはスーパーの袋を持っている。


「………銀、時。」

「もう日も暮れるのに女の子が一人でふらふらしてちゃだめでしょう。」


誰も襲わないよ、私が返すと、男は皆狼だから気をつけなさい、とまるでお母さんみたいに返された。



「で?、お前こんなとこで何してんの?ナンパ待ち?」

「そうだって言ったら?」

「…いや、冗談だったんですけどー………もしかして俺誘われてる?なんちゃって」

「あたしも冗談だってのアホ天パ略してアホ天」

「何!?何その海老天の仲間みたいな呼び方!」



銀時と話してると時間がゆっくり過ぎていくようだ。

あたしの言葉に隙もなく突っ込んでくれた銀時に軽く微笑したら、銀時は突然こちらに手を伸ばしてきた。

「…!」

突然、何だ。場景反射で後ずさるが、銀時の手はあたしの手を捕らえていた。


…あったかい。



「…冷えすぎ。よし、お前ウチに来い。銀さんが特製チョコレートドリンクを作ってあげよう。」

「ダイエット中だから却下。」

「そんな細いのに更に何処を細くしようとしてるのかが全くもって謎なんだよオメー。
 
 第一人の好意を無下にするもんじゃねーぞ。何か拒否されたチョコレートドリンクが可哀相だろ!」



言いつつ、あたしを立ち上がらせた銀時は、手を引いてすたすたと先を歩いていく。

いつもの銀時はこんなに早く歩かないのに…。


あたしは小走りでついていかなければならない。


「ちょ、銀時、早い。」


流石に少しだけ歩調が緩められたものの、まだ早い。

おまけに銀時は、振り向きもしない。


「………ねー、何でこんな、早足、なの?」


私の方はといえば、もう既に息が切れてきた。

着物を着ているあたしと銀時じゃあ歩幅に差がありすぎるのだ。


「ぎーんちゃーん」

「………」

「止まらないと嫌いになるよ」


ちょっと冗談のつもりだったが、銀時はピタりと静止した。「あらー本当に止まっちゃったよ。」

ボソりと呟いたあたしに、銀時が反応する。


「違うから!嫌いになられると困るから止まったんじゃないから!…なにその目ェェ!

 疑ってるだろ。明らかに疑ってるだろォ!違うからなァ!」

「…へェー違うんだ。」


口角を少し上げて、あたしは銀時にむかってニヤりと笑いかけた。


「……なんか今日のちゃんは一段と銀さんをおちょくるんだねー。」

「……」


ちょっと黙ったら、銀時が半眼でこちらを見下ろしていた。

苦笑の入り混じった、無気力な笑みを浮かべて。


「……ごめん。…悪気は無いんだよね。」

「やっぱお前熱あるんじゃねーの。そんな素直に謝るなんていつものお前らしくな グフォッ!

足踏んでる!足… 「他に何かいう事は?」 すいませんほんとすいません」


それならよし、とあたしは銀時の足をぐりぐりしていたカカトを持ち上げた。


何で正直に謝る気になったかなんて、よくわかんないよ。

なんとなく…。なんとなく、なんだけど。

きっと、いまだから、なんだろうけど。


銀時が笑った顔見たら、心の中でもやもやしてたのが、ちょっとスッキリしたんだよ。



「…銀時。」

「あー?」

「やっぱ、チョコレートドリンクご馳走になる。」


そういうと、痛そうに足をさすっていた銀時が手を止めて軽くため息をついた。白い息がもわっと広がった。


「最初から、断っても連れてくつもりだったっつーの。」


早く行くぞ、と言って差し出された銀時の手を、あたしはぎゅっと強く握り締めた。


「銀時の手、あったかい。」

「お前は手が冷たすぎ。」

「手が冷たい人は心が温かいんだよ。」

「それ、遠まわしに俺の心が冷たいって言ってんの?新手のいじめ!?……泣いていい?」


おいおいと泣く振りをしている銀時に、「バカだなー。」と言った。

そして、

不思議そうに顔を上げた銀時のほうではなく、敢えて前だけを見て、あたしは





「銀時は例外でしょ。……あんたは十分、手も心も温かいと思うよ。」





苦笑してそういったら、何かしらんけどぎゅっとされた。



君を見て優しくなれる
そんな時間が
たまらなく好きなんだよ


 あたしも、俺も。











「+星に願いを+」二周年記念企画「星夢祭」にて


written by 輝月流星


Thank you very very much ! !