目の前には、 幸せそうに男の手を取り、微笑む女。 その手を億劫そうに、だが嬉しさを押し隠したような表情で握り返す男。 「トーシー。今日のご飯は?」 「お前、またウチで食ってく気か?お前にやる飯はもうねェよ。」 「当たり前じゃん。だってこっちで食べたほうが食費が…すいませんすいませんすいません何でもありません」 「バカ」と言ってコツ、と彼女のおでこを拳の裏で叩く。彼女はおでこを抑えて「いったー!」と叫ぶ。 何処からどうみても、ただのイチャイチャカップルのワンシーンだ。 特に男のほうの顔が気に食わない。嬉しいなら嬉しそうに笑えってんだコノヤロー。 彼女は、そんなポーカーフェイスなところもきっと好きなんだろう。 あんな面白くも何ともないヤツの顔をみて、へらへらと、幸せそうに笑っていやがる。 やっと仕事が終わって(と言ってもそこらへんで寝ていただけだが)ほっとした気持ちで帰ろうとした矢先だ。 は俺と共に帰ってきた土方のほうを、屯所の門前で待ち構えていた。 とはいってもこれは珍しいことじゃない。 彼女は土方を好いているし(彼女に尋ねれば、真っ赤になって否定するのだから、言わずもがなそうなのだろう)、 土方も土方で、いつもは女を鬱陶しそうな目で見るくせに玲に対してだけは違うのだから、恐らく前に同じだ。 どこで知り合ったのか知らないが、彼女は何時の間にか土方の周りをウロウロするようになっていた。 同じように、何だかんだで土方の近くにいる俺とも勿論顔見知りなわけで。 「沖田君!こいつに何か言ってやってよ!トシってば他の女と一緒にいてさー」 土方の部下である俺だからこそ、いつもこんな役回りだ。 「そうですねィ。なんていってやりましょうか…。……死ね土方」 結局は彼女が俺に声をかけるのも、土方のヤローに構って欲しいからであって、俺に話しかけたいからじゃない。 「オイィィ!何か最後に不吉な言葉聞こえたんだけどォ!本人ココにいるの無視ィィ!? …っつーかお前、アレは潜入捜査だって言ってんだろ。」 「信じらませーん。」 前を歩く二人が、あまりに憎たらしく見えてきた。 だって一人は憎たらしいクソ副長、もう一人はそのクソに恋してるバカ女。 あー、俺ももう、こんな好きになるの止めればいいのに。 いや、今此処で止めてやる。どうせ最初は一目ぼれだっただけだし。今は副長の女、それ以外のなんでもない。 「あ、山崎テメェ!またミントンやってたなコノヤロォォ!」 「ぎゃー!」 そうすればもう何とも思わなくてもいいのに。 「あ、そうだ、沖田君!」 「…なんですかィ。」 「コレ!さっきぶらぶらしてたらこんなの見つけちゃったの。何かとっさに沖田君が浮かんできて…似合うと思って!」 彼女は手に持ったシルバーのネックレスを俺に突き出した。 「いえ、悪いでさァ。そういうのはあの人にやってくだせェ。」 少しはなれたところでミントンをしていた山崎を半殺しにしている土方を、親指で指す。 「いやいや、これは沖田君のために買ったものだからね。是が非でも受け取ってもらいます。」 「はァ…じゃあ有難くもらっときまさァ。」 「えへへっ」 そうして嬉々とした顔で俺を見ると、「トシ行くよー」とまた土方のほうへ歩いて行った。 「…こんなもの、貰っても悲しいだけだろィ。」 だけど、捨てるわけにも行かずポケットに押し込んだ。 珍しくも「沖田君のために買ったものだからね」なんていうから。 そういう意味じゃない、恋人が恋人にプレゼントを買うのとは違うんだってことは分かってる。 自惚れちゃいけないんだってこと、それがどれだけ馬鹿馬鹿しいかってことも、知ってるんだよ。 でも……。 ああ、やっぱり俺は貴方を嫌いになんかなれないみたいです。 「全く、残酷な女性(ひと)ですねィ。」 君が見ている世界と 僕が見ている世界の 相違について 貴女の世界に、俺は入ってんのかねェ 「+星に願いを+」二周年記念企画「星夢祭」にて written by 輝月流星 Thank you very very much ! ! |