潮風のにおい。

段々、近くなってきた。



































くじらの














































あたしは風に髪をまかせながら、
船の横から思いっきり身を乗り出した。

「せんちょぉ〜!あとどれくらいで着くのー?」
「んまぁ…ざっと30分。」

操縦室から聞こえた声は五月蝿そうに返事を返した。

風が心地いい。
30分くらい、これを楽しむのも悪くない。
天気は最高、カモメもちらほらと姿を見せては消した。
本当に懐かしい、この感覚。

昨日あたしの携帯にかかってきた電話には流石に驚いた。
だって、ゴンが帰ってきてる、だって。
ミトさんのハツラツとした声、久しぶりに聞いた。
電話の向こうでは騒がしいドタバタとした音が聞こえ、
ゴンの名を呼ぶ少年の声も聞こえた。
きっとゴンにも新しい友達が出来たのだろう。

あたしは旅をするなら一人のほうが性にあっていたから
特にそういったかかわりを持つことを拒絶していた。
だから今この船の上でも、たった一人。
くじら島に船が向かうことは珍しいほうであるから
他に乗客は居なかった。



「んー…広くていいけど、ちょっと寂しいなぁ…」

食パンをカモメにむかって投げやりながら、
あたしは独り言を呟いた。
ふとカモメがあたしの傍に腰を下ろしたから
ついついあたしはぷっと吹いてしまった。


「ん?お前、分かってくれるの?よしよしっ……」


そうこうしているうちに、くじら島を目前に船は海上を滑っていた。


「お譲ちゃん、もう船がつくぜ」

船長がそう言い出したからあたしはまた身を乗り出した。



「やっと会えるんだ…」


自然と顔が笑っているのが分かって少し恥ずかしくなった。































「じゃ、気をつけてな」
「うん、船長ありがとねー!」

体いっぱい手を振ると、
船長は操縦室の窓から振り向かずに手だけ振っていた。

「(優しい人だったな〜…見た目は怖かったけど。
  今日は天気もいいしっ!良い日になりそう。)」

ウキウキ気分で島に着いたあたしは記憶を頼りに歩き出した。
確かこの辺りを右に曲がって…
そんでもってこの通りをまっすぐ……―――あ…



あった。




其れは紛れも無く。
小さい頃と変わらないまま其処にあった。
ただ、前よりも些か賑やかな声が聞こえてくる気がする。
それも、そうか。
だって、ゴンには新しい友達が出来たんだもんね。


「ただいまー!」
「え?其の声は…」

奥のほうから走ってくる足音が聞こえた。
ミトさんだ。


!久しぶり、本当に来てくれたのね!」
「うん、ゴンが久しぶりに帰ってきてるって言うんでね…あ、ゴン!」


ミトさんの後ろからこちらをうかがうように顔をのぞかせたのはゴン。
あたしが名前を呼ぶか否かの瞬間に、
ゴンの目がぱぁっと明るくなったのがはっきり読み取れた。
あたしも嬉しくなった。

ー、久しぶりー!!」
「ゴン、会いたかったぁ!」

あんまりゴンが大げさに言うから、あたしもちょっと大げさに。
騒ぎすぎたのか、ミトさんが人差し指を立ててしー、っと言った。
さすがに近所迷惑だよね。

「…その人は…ゴンの新しい仲間の人だね。」

そうそう、とゴンがまた目を輝かせた。

「あたし!」
「オレはキルア。よろしく。」

初めての人だったから、思いっきり笑顔でいった。
ちょっと照れたような顔をしていたけど何でだろう?





ミトさんが用意してくれた服に着替えた。
今来てる服を洗濯してもらうために。
長い長い一人旅でちょっと疲れたから、ついでにお風呂も借りた。


「夜になると、きっとあの子達すぐに入りたがるから…
 今のうちに入っておいたほうがいいわよ。」

ミトさんの一言からだった。
もう昼過ぎだったから、別に入っても問題ない。



「ねぇ、ちょっとそこらへん歩かない?」

風呂をあがって早々にゴンが話を持ちかけた。
―――ミトさん、やっぱり昼にお風呂は甘かったみたい…。
ゴンのことだから、また一騒ぎするに違いない。

久しぶりにこの地を踏むのだから、
あたしは勿論賛成した。キルアも後からついてきた。








「そうそう、ここ……よく遊んだなぁ…」
、ここでよく派手に転んだよね」
「それは…いっつもこの木の根っこが邪魔だったのよ!」

二人で楽しく話していると、
いきなりキルアが喋りだした。

「オレ、何か具合悪いから先帰るわ。」

キルアの顔色は別に特別悪いものでもなかった。
だけど其れを言う前にキルアはくるりと方向転換し、
さっさと歩いていってしまった。


―――二人が、キルアの行動の真意に気付くことはないだろう。――


「キルア、大丈夫かな…」
「大丈夫、キルアは強いから!」
「いや…そう言う問題じゃないと思うけどね。」

また、あたしたちは歩き出した。


「ここ…まだ残ってたんだ。」
「ほんとだ。」

其処には、島の形状で元々あった穴蔵。
背の伸びたあたしたちには少し小さかったけど、まだ入れる。
ここは、ゴンとあたしのいわゆる秘密基地。
昔は、此処でよく遊んでいたっけ。
あたしとゴンで色んなものを持ち寄って、
まるで二人だけの家みたいだった。

「これ……」

吃驚した。
中に入って、あたしがペンライトを付けたときだった。

見つけたのは、小さな缶。

そして缶には小さな紙切れが貼ってあった。





『みらいのオレたちへ』





まるで小学生の作文の題名のようだった。
字が汚いから、多分ゴンが書いたものだろう。
でも、一生懸命な字だった。

「これ、あたし達が島を出る前に…」
「うん。」


「―――…開ける?」
「オレ、もう何かいたか覚えてないや…」
「あたしも同じ。じゃ、開けちゃうよ?」
「うん。」


あたしはゆっくり、四角の缶の蓋を開けた。
中には二枚の紙が入っていた。
二つにたたまれた、白い紙。

其のうちの一枚を開いた。


多分、あたしの字だと思う。
たった数年しか経ってないのに、随分自分は成長した、とも思った。


『今日島を出ます。すごくさみしい。
 でも、またきっとゴンに会いたい。会えるよね。
 何年かかってもいいから、ちゃんとハンターになって
 またミトさんとゴンとあたしと三人で
 一緒にくらしたい。』


ハンターになったあたしは、またこうしてゴンと会えた。
ミトさんと三人じゃなく、ゴンの新しい仲間、キルアも含めて四人だけど
確かにあたしが昔願ったことは今かなっていた。


あたしの文は恥ずかしいくらい素直で、
読んでいて少し顔が赤らめた。
ゴンに会いたい。なんて、そんなに正直に書いちゃうなんて。


「何だかの文、かわいいや。」
「な、気にしてるんだから言わないでよっ、それよりゴンの見よう、ゴンの!」



『ついに主を釣り上げた。もハンター試験をうけるよ。
 ちょっと寂しい。行く場所は同じだけど、
 いつかは離れ離れになってしまうから。
 オレはのことが好きです。だからもしもまた
 もう一度この場所でとこれを読む時は
 ちゃんと告白したいな』



―――ん?




え、うそ。




私は思わず目を疑った。疑わざるを得なかった。

其れは確かに昔ゴンが書いた文であり、筆跡も記憶にあるとおりで。



『ちゃんと告白したいな』



其の言葉は何度読み返しても変わらなかった。
振り返らなくても、周りの温度でゴンがどんな顔をしているか分かる。
途端に穴の中が嫌に蒸し暑く感じた。


「ゴン、これ…」
!」


あたしは吃驚して思わず肩をびくつかせた。


「な、何よ。」


「いや、やっぱり自分の思いは曲げたくないって思ったから」


それってもしかして。

もしかするんですか?


そう思った瞬間あたしの顔は一気に赤くなったのが分かる。
耳の先まで熱くなったからきっと相当なものだろう。
振り返ったら、大きなゴンの瞳に捕らえられて身動きが取れなくなった。


ヤバい。



、オレ…のこと……」



どうしようどうしようどうしよう。


あたし、まだ何にも用意出来てないよ!
とうに心臓はバクバク言い始めていて、今にも爆発しそうだった。

「いやぁぁぁぁ!!!」

耳をふさいで、大声を上げて。

とにかく、其の先の言葉を遮るようにしてあたしは走り出した。
入り口は直ぐ其処だったから出るのは容易かった。
外に出た瞬間、辺りは暗くなっていることに気がついた。
もう、殆ど日が傾いていた。


…?」

ゴンは呆然との言った後を見ていた。


















どうしてこうもあたしは馬鹿なんだろう。
最大級の、バカ。

自分自身に質問する。


あたしは、ゴンが島に帰ってきたって聞いたとき。

ミトさんの後ろではしゃぐ声を聞いたとき。

船からくじら島が見えたとき。

ミトさんの後ろからゴンが出てきたのを見たとき。


そして、ゴンの口からでそうになった言葉。



一体どんな気持ちになった?

ドキドキして、言いようもなく嬉しくて。
其れは言葉に表せないような気持ちで。
思わず、笑みがこぼれるような。


「あたしは…」


好きなんだよ。ゴンのこと。



さっきは恥ずかしくて逃げただけ。
けど、ゴンが折角気持ちを伝えようとしてくれていたのに
あたしは其れを遮るようにして逃げ出したのは
ゴンを傷つける行為になってしまうわけで。


あたしはくるりと方向転換をした。






―――――――――――その時。





!」
「……っ…ゴン…」


追いかけてきたらしい、息の乱れたゴンが後ろに立っていた。
この距離だから、走りつかれて息を乱していることはありえない。
きっと、あたしのことを心配して……


「ずるいよ、。逃げるなんて」
「ゴン、あたし気付いたんだ。」


あたしは駆け寄った。
そして、思い切りゴンに抱きついた。


「あたし、ゴンが大好き!」
「うわ、!!」



体制を崩したあたし達はそのまま地面にごろんと転がってしまった。




「オレも、のこと好きだから。
 …、こうしてあえて本当に嬉しいよ。」


普通の人が言ったらちょっとくさい言葉になっちゃうことも
ゴンのそのまっすぐな瞳に見つめられて発せられたら
とても素敵な本音に大変身する。

ゴンはこの数年間の間に何一つ変わらぬままで
本当に嬉しかった。
内心、自分の知らないゴンが他の人たちとのかかわりによって
どんどんつくられていったら。
私の入る隙間も無いほどに埋められていったら。

そんな不安は今一気に吹き飛んだ気がした。




すると、ゴンの顔が妙に近く感じた。
あわてて離そうとしたけど、体制上そうは行かない。
ゴンは尚もまっすぐな瞳であたしのことをみていた。
心臓が、跳ね上がった。

どちらからともなく、魅かれていった。
お互いの瞳に魅せられて、どっちも視線が逸らせない。
私はゆっくり眼を瞑った。
ゴンがどんな顔をしていたかは分からないけど、
その後私の唇にしっとりとした感触がついて…――

「おーい!!メシだぜー!!ゴン、!」

聞き覚えのある声に吃驚して、
あたしは上体を持ちあげ、ゴンは急いでとび退いた。

「あ、いた…メシだぜ、メシ!ミトさんおこってっぞ!」

間一髪、キルアが来る前にあたしたちは
隣同士座って、其れも運よく夕日を眺めているかのような状態になった。

「う、うん、わかった!」
「それ、それじゃいこっか、二人とも!」
「……?……おう。」

キルアだけが一人、首を傾げていたのだった。








「お…おいっしーぃ!!ミトさんの料理久しぶりー!」

あたしは思わず惚れ惚れとした声を出してしまった。
結局あの後もう一度入りなおしたお風呂の後、
食卓に並んだ料理を一つつまんでいたのだ。
案の定ミトさんにつまみ食いがバレておこられたけど。

ゴンが面白そうに腹を抱えて笑っていた。

「はは、はほんと、隠し事できないよね」
「んー、ゴンにだけは言われたくないな!」
「…もっともだな」
「え!?何でさー!」
「何でって…ほら、その時点でもうだめ!」
「だよなー!」
「ふ、二人してわらわないでよ!」


ミトさんが台所で穏やかに笑っているのが一瞬見えて、
やっぱり自分はまだまだ子供なんだ、と今更ながら実感した。
そして一方で、まだ子供でいたいという気持ちもあった。
何も考えずに、こんなふうに笑い会える人が居る。
何だか今までで今が一番楽しいような気さえする。


「ほら、皆席ついて!」


ミトさんの一声がなかったら、あたしたちは時間を忘れて騒いでいただろう。
ほらほら、と手をパンパンと叩いてミトさんはあたしたちを席につかせた。

「今日は、何か沢山そろっちゃったからちょっと贅沢に、ね!」

くじら等では色々な幸がとれる。
その狭い面積では考えられないほど山の幸がとれ、
田んぼこそ無いが畑はある。
海の幸は島なのだから困ることは無い。

やっぱりこの島が一番だよ。

あたしが生まれ育った、この島が。


沢山の幸せに包まれながら、あたしは一日過ごした。


















寝るとき、明日帰らなければならないことを

皆に告げていなかったことに気付いたが、

皆の目の前で泣いてしまいそうなのでやっぱり言えなかった。




















三人で仲良く並べた布団にもぐりこんで、
あたしは一人ひっそりと泣いた。



ごそ…



真ん中に眠っていたあたしの右隣、
つまりキルアの寝ている布団から物音がした。
必死に泣き声は隠しているつもりだったけど…
あの子、勘がよさそうだからバレてしまったのかもしれない。
そう思いながら、布団の中で寝ている振りをすることに決め込んで
身動き一つせずに相手の様子を伺っていた。


すると、急に気配が動き、そっと布団が捲られた。
尚も寝た振りをつづけたあたしだった。

「……泣くなよ」

ぼそりと、あたしに話しかけるというよりは
独り言に近い声の音量だった。
ぴく、と肩がゆれてしまったのが分かる。
これじゃあキルアにおきていると直ぐバレてしまう。


だけど、次の彼の一声に、驚いて目を丸くするしかなかった。











「明日腫れた目して起きてきたら…
 ゴンとの別れがつらくなるぜ。」











何で知って……
そういいたかったけど声を返すことは出来なかった。

きっとキルアは知っていたんだろう。
隠していたことに気付いていたんだろう。
ゴンとあたしはやっぱり似ているところがあるのかもしれない。
ゴンの傍にいつもいる彼だからこそ
あたしのことも分かってしまうのかもしれない。

――なぜか、内心ほっとしている自分がいた。

あたしがいなくても、ゴンのことをこんなに分かってくれる友達が居る。
小さい頃からはちゃめちゃで感情に流されやすくて
体力と体術だけは凄かったゴン。
やっぱり細かい所まで注意が行かないやつだから
ハンター試験を受けたあとあたしと離れてしまったら
大丈夫なんだろうかって本当は心配だった。
だけど、キルア、あなたがいてくれるなら安心だよ。












明日また、ゴンと離れることになったとしても。





















夜が明けて、白い光が漏れてくる。
ミトさんがカーテンを開ける心地良い音と、
開け放たれた窓から入る少し冷たい風が肌を通り抜けて


久しぶりの、故郷での目覚め。


起き上がって、両隣の二人はまだ寝ていることに気がついた。
ミトさんと目が合う。
えへへ、と力なく笑うと、

「今日、行くの?」

ミトさんも気付いていたらしい。
ゴンの傍にいる人として、キルアと同じようにやっぱり気付いてたんだ。




「うん……これ以上長居したら、二度とこの島から出たくなくなる。
 あたしはあたしの目標のために、やっぱり島からでなきゃいけない。」


でも、と続けた。


「本当に楽しかったよ、心が根っから安らいだ。
 ミトさんの手料理とか、ゴンと会えたこと、キルアっていういい人と会えたこと。
 楽しかった。本当に。……たのしかった…よ……」


たった一日の間の出来事だった。

だけど、その間に起こったこと一つ一つはどれも輝いていた。
本当にあたしが素直になれる場所は、ここ。
そしてあたしの生まれた故郷は、ここなんだ。


涙が出そうになるのを必死にこらえていたら、
後から肩を抱く感覚があった。
このにおい…


「起きて…たの……?」
「うん。ミトさんが、この部屋に入ったときから。」

振り返ると、キルアもゴンも起き上がっていた。
視界が一気にぼやけて、
次に瞬きをした瞬間には全てが水の中だった。


「あたし………あたし……――っ」
、聞いて。」


ゴンは至極静かにあたしを制した。


とオレたちは、二度と会えなくなるわけじゃない。
 そりゃ、仕事とかいろんなことでお互い忙しいから
 簡単には会えないかもしれないけどさ、
 でも、会いたいって想いがあればきっとまたこんなふうに会えるから。
 
 は、今は自分のやるべきことをやるべきだよ。」


ゴンにしがみついて泣いた。
いつの間にかこの部屋には、あたしとゴンしかいなくなっていた。

止めようと思っているのに後から後からぽろぽろとこぼれてくる涙。
このときばかりは自分を恨まずにはいられなかった。



、大丈夫だから。」



ようやくあたしが泣き止んだ頃、
そういってゴンは優しく背中をなでてくれた。
よく、昔もこうしていたっけ。
すっころんだあたしが痛い膝を抱えて涙をこぼしていると
ゴンが直ぐに駆け寄ってきて、

、大丈夫だから』

そう同じ言葉をかけてくれた。
凄く嬉しかった。



今、ゴンがそう言うことを思い出して言ったのかは分からなかったけど、
そうであるような気がして心の中で静かに微笑んだ。


あたしたちは、いつだって繋がってる。

ゴンなら、そう信じれる。















そして、あたしは船に乗り込んだ。


「忘れ物、無い?荷物ちゃんとまとめたわね。
 あとで忘れても届けにいってあげられないんだから。」
「ミトさんそれ、ハンター試験行くときも同じこときいたよー!」

あはは、と笑った。
ゴンも、キルアも、つられて笑ってた。

この風景がこれからも変わらなければいいなって
心から思えるのはきっとここだけ。
あたしの仲間がいる、ここだけ。

この船に乗って、また少し揺られて都会に出たら
あたしは途端に死と背中合わせの生活になる。
また、ここに戻ってこれるなんて保障はどこにもなかった。
あたしはゴンたちよりも早めに仕事についた。
だから、信頼も厚くて其処から危険な仕事任されることも多い。

でもね、なぜだかは分からないけど


きっと、大丈夫だって。


ただの、あたしのインスピレーション。


けど、それは確かな確信を持って


あたしの胸に刻まれた。




「向こうにいったらまた…がんばってね。けど、がんばりすぎちゃ駄目。
 疲れたら、何時でも帰ってきていいんだから。いつでも大歓迎なんだから
 迷惑だ何て思わずに思い切り休んでいいのよ。」
「はい、分かってる。」


そういって、客室に荷物を置きに行くためにあたしは背を向ける。



「まって、
「……何?」


ゴンはついに踏ん切りがついたというようすで、船に飛び乗ると、
至極小さな声であたしにささやいた。




































『十年後、またくじら島で会おう。そしてその時、結婚しよう。』



































耳を疑った。

まさか、あのゴンからそんな言葉が出てくるとは夢にも思わなかったから。
内容が内容なだけにあたしも顔が赤くなる。
すると察したようにキルアとミトさんは笑顔になる。
ただ、二つの笑顔は種類が全く異なっていたけど。

キルアのは、いわゆる「にやにや」笑い。思いっきり不快…。
ミトさんのは、「あたたかい」笑い。まったく、っていうような。

ゴンの顔を改めてみて、やっぱり真顔で言っていたことを知る。

そうだよね、ゴン。

いつだってゴンは一生懸命で。



だからあたしも一生懸命で

答えなきゃ。





大きく首を縦に動かして、

「うん!」

そういったあたしはいつの間にか最高の笑顔だった。







十年後

遠いようで近い。

近いようで遠い。

きっとまってるから。

だから信じてまってて。

絶対生きて帰るから。







貴方だけを、想いながら。








































船長が「行くぞ」とたった一人の乗客、あたしに告げた。

「行きも帰りもお世話になります!」

あたしは皆が見えなくなるまで大きく振っていた手をようやく下ろし、
自分の荷物を部屋に運ぶ。


振り返ると、島がぽつりと海に浮かんでいるのが見えた。



「お前…なかなかやるじゃねえの」
「……地獄耳?」
「いやな。…ふん」


鼻で笑うと船長は、また前に視線を戻す。
あたしはまた、カモメ達に見送られて

仕事へ。
































































+++++
あとがき
初ゴンドリ!ゴンは…嫌に難しかった。
書いててちょっと恥ずかしくなる言葉とか平気で言ってのけそう。

宮沢嘉穂さんのみ、お持ち帰りOKです♪
五千打キリリク、有り難う御座いました(*_ _)

*輝月