いつもお前は遠くを見るような目をしていて

目の前に居るはずなのに急にどこかへ行ってしまいそうで

近づいたのは、只の好奇心。














































Distance


















































「また、来たんだね。」
「…よっ、。」


のどかな風景、とでも言おうか。

普段オレが住んでいる世界とは、少なくともかけ離れていた。
「平和」という単語が似合うような景色。


そこに彼女はいた。



「毎日ここにいて、飽きないのかよ?」
「キルはせっかちさんだから気付かないんだよー。」


相変わらずのんびりした様子で彼女は答える。


「空は、毎日こんなに表情を変えてる。それに、同じ表情は二度と作らない。
 毎日空を見てると、よく分かる気がする。」
「へー…いつもの空だけどなぁ…。」


そういって空を仰ぐ。

青い空に、引きちぎったような雲。
確かに昨日のと比べればちょっと違うかもしれないけど大差ない。

第一、空なんてじっくり見たことが無いから分からないが。


「キルこそ、毎日ここに来ててよく飽きないよね。もしかして…暇人?」
「は、それ、には言われたくないね。オレは別に暇だから来てるだけだし。」
「それにしては、帰りは急いで帰るじゃない。」
「だって一応門限みてーなもんがあるからな。あんまり遅くなるとちょっと問題アリだし。」





人とは、馴れ合うなと教えられた


殺すときに、躊躇う人を作るなといわれた


オレは、約束を破った。





の顔を見に来るっていうのもあるかな。
 なんつーの、ほっとけないっていうか…あー、何いってんだオレ。」
「あはは、キルは変なこと言うんだね。
 …そうだなー、あたしは雲が好きだからずっと雲を見ていたいし、
 もしかして、キルもそういうことなんじゃない?
 あれ、これじゃキルがあたしを好きってことじゃん。」


はは、と笑うとは、あっと何かに気付いた様子でポケットに手を入れる。


「これね、この前撮ってみたんだけどさ……」


空の写真。
だけど、今見ている空よりは大分暗い様に見えた。


「このときは明るくて、凄く透き通ってたから、ずっと残しておきたいと思って。
 だけどあたし、プロのカメラマンじゃないし…上手く取れなくて。
 結局、本当に綺麗なものは一瞬の命なんだよね。」


オレは、形あるものはいずれ朽ちるということを常に説かれてきた。
の言うこともわかる。

わかる、けど。


綺麗なものというのがオレにとってはであるから
いずれ朽ちると考えるのは怖くて。


「なぁ、ってさ。たまにどこか飛んで行きたそうな目ぇしてるよな。」
「だってあたし、鳥になりたいんだもん。」
「……は?」
「あの大空を自由に飛べて、あたしたちよりずっと……近くであの青を見れる。
 そんなにうらやましいことは無いでしょー?」

ぷ。

「あははははっ…はは…」
「な、な、そんなに笑うこと……」
「ワリワリ…いやさ、あんまり幻想的な夢でさー…」


密かに、オレも鳥のことはうらやましかったりする。
解き放たれたいといつも願っているから。
でも、そんなの。


「オレならいやかな、鳥になること。」
「なんでよ!」
「だって……鳥だったらこんな風にいろんなことを感じられない。
 とも、いろんなことを話せない。
 きっと鳥は空の事を綺麗だと思ったことは無いだろうし
 もちろん他の鳥と沢山の言葉を交わしたりしない。」





人間でなければ、願わないことだから。


人間として生きていなければ、意味の無いことだから。






「例え空を自由に飛べたって…と居れなくなるなら意味ないから。」


ったく、ハズいっつーの、オレ…。

言ってから急に顔が赤くなってきた。
マジでハズいなこれ…。


「そうだね……。あたしも、キルと一緒に居れないなら
 何処へも行きたくないって思う。」



ありがとな。

ハズいから言葉に出してはいえなかっけど、心の中で言っといた。



「じゃ、オレ今日はそろそろ帰るわ。」
「そうだね。また、明日。」


また、明日。


其の言葉をこれからもずっと聞いていけたら。


幸せだった。








































「キル、最近仕事以外でこっそり外出してるんでしょ。どこいってるの。」
「兄貴には関係ないところだよ。」
「……お前、オレの教えを忘れたわけじゃないよね?」
「…勿論だよ。」
「それから、仕事の依頼するときにどっか行かれると困るから
 あんまり変なとこ行くなよ。」




ヤバい。

バレていた。




「分かったよ。」




確かに、兄貴が知っていても可笑しくはなかったんだ。
追尾されててもオレが兄貴の存在に気付かないのも当たり前だ。
兄貴の気配の消し方はオレより更に完璧だ。
と言うより、暗殺の技術はオレに教えただけのことはある。


それより心配なのは、だった。






オレは、掟をやぶったんだ。





















「キル、友達作って許されると思ってないよね。」






















兄貴がどれだけ恐ろしいのかを忘れていた、オレは愚かだ。






















































ガー




スケボーを駆ってあそこへ急ぐ。

に早く伝えないと……早く、あそこを逃げるように……!





!」




は、窓際に居なかった。




「おい……!!」



開け放されていたいつもの窓から入る。

そこに、の姿は見えない。


……可笑しい…いつもなら、窓辺で空を眺めているはずなのに…

病気でも……したのかな。




だけどオレの頭の片隅からは、
兄貴のあの言葉が忘れられなかった。


『……お前、オレの教えを忘れたわけじゃないよね?』


既に兄貴はオレがここに来ていることに気付いている。
……まさか…


まさか。












家の中を歩き回っていたオレの視界に人の足のようなものが一瞬垣間見えた。
戻ってその部屋をのぞいた。




「……お前…」




間違いなく、だった。

その胸は真っ赤に染まり、それ以外のところにはとくに外傷は目に付かない。



「あいつの…やり方だ……」



手馴れた殺し屋のやり方である。
のような一般の人間だったら、急所を突くのは容易い。



「ピン……」



の胸、おそらく心臓を貫いているだろう。

なんで……だよ。


自分の中で、自問の答えは出てる。
だけど、だけど……



『結局、本当に綺麗なものは一瞬の命なんだよね。』



それが、お前だったなんて。



「キル…?」


息なのか、言葉なのかわからないくらいの声だった。


「おい…お前生きてるのか…?」
「あは……でも…もう眠い…」


の口に耳を近づけて、それでもほとんど聞き取れない。
ただ、眠いといったのだけ、わずかに聞き取れたんだ。


「おい、寝るなよ…寝たら死ぬぜ…?」
「ありがと……」


何がありがとうだよ。
お礼するなら言葉なんか要らないからもっと生きろよ。
オレにはお前が必要なんだよ。


「死ぬな…!」


オレの願いが届くなら
もう一度、あの空をお前に見せてやりたい。

「ごめん…ね」
「謝るなよ…謝ったりすんなよ…!まるで…死ぬみたいじゃんか」


笑った。
オレは笑った。

今まで窓辺でしてきた会話が、すべて夢のようにさえ思えた。

走馬灯のように一気に駆け巡って行った。


そしたら、真っ先にお前の笑顔が浮かんできてさ。
今の姿なんて予測もできないくらい輝いてて。
オレも笑うんだ。
ポーカーフェイスも自然に崩されるくらいに。

笑った。
お前も…笑った。


「はは…逢えてよかった…よ…」


楽しそうに、幸せそうに。

オレのつかんでいたの手が、オレの手から滑り落ちた。






























オレは窓から外を見る。
気分とは裏腹に透き通った青い空。
不思議と、愛しかった。

不思議と、見とれていた。




「キル…やっぱり来てる。」
「……あに…き…」




憎らしい。けど、適わないことは百も承知だ。
とてもじゃないけどオレには…手が出せない。


「オレは、忠告したはずだよね。そして確認もした。なのにキル、お前は来た。」
「……」
「だからオレはそれなりの対処を取らせてもらった。」
「何で…殺し屋に友達はいらないの?」
「……仕事の邪魔になるからだ。」


に近づけば、どうなるかなんてわかっていた。
隠し通せる根拠も自信もなかった。











ただ、それでも。










に会いたい気持ちは誰にも消せなくて

いけないとわかっていながら毎日通った。

行く前には血のついた服を着替えるとか、

たくさん気を使って。


きっとオレは


のことが…




「オレが近づかなければはこんな風にならなかったんだよな…」
「……余計な感情を持つなよ。」


兄貴はそれだけ言うと、先に帰ってるよ。と言い残し、去っていった。



へたりと座り込んだ。

立ち上がる力はなかった。



今まで数多の殺しを繰り返してきた。
人の死を見るのにはとっくになれた。

人が一人いなくなることが

こんなにも苦しく感じることなんて。





「大好きだったんだな……オレは……」





ポケットに手を入れる。


の大好きな空が、いっぱいに撮られていて。




















































人の死に、












































初めて流した涙だった。


























































































+++++
あとがき
(バカなんで注意!)


死…ネタ… ぐふぉぁ ぇ
キルアの死ネタは驚くほど書きやすいです。
ですが、今回はいろんな気持ちをこめて書いてみました。
たとえば数多の殺人を繰り返してきた殺人鬼の流す涙とか
束縛されて自由になれないが故に最後にやっと気づいた心とか
それに慣れていなくて戸惑うこととか。
自由に感じ取ってみてください。

*輝月