ねぇクロロ…。



クロロってば!!

































































貴方と共に




























































クロロは何度も名前を呼ばれて、ようやく視線を上げた。
そんなクロロをみてはふぅと息をつく。
腰には手を当てて、たいそう待ちくたびれた顔をして…ずいっとクロロに顔を寄せると、
眉間にしわを寄せてわっと怒鳴った。




「今日は、買い物行く日でしょ!早く行こうよ!」
「…そんな約束したか?」
「した、した、し・た!!この前…も〜クロロってば忘れちゃったの?」
「あぁ…すまんな。」




すっかり約束ごとなど忘れて、本を読みふけっていたクロロ。
に怒られるのも、わけない。
ゆっくりとイスから体を起こしたクロロは、いつものコートの前を通り過ぎ、
もっとカジュアルな感じのコートを身に着ける。
無論、髪の毛は、下ろしたままで。



「行こうか、。」
「…うん。」












黒い瞳に吸い込まれそうになる。

こんなにドキドキするのは、今に始まったことじゃない。



クロロに出会ってから、ずっとだ。





――クロロに見つけられてから、ずっと。





この胸のドキドキがなんなのか、あたしは知ってるんだ。
だけど、認めたくない。
貴方はあたしを見てなんてくれないから。
認めたくない、この気持ち。


認めちゃったら、今より……


きっともっと苦しくなるだろうから。








、行かないのか?」
「え…あ、行くよ。」

ぼーっとしていたに一声、クロロは颯爽と歩き出した。
二人でアパートを出て、外に出る。
多少の雲はあるけれど、十分すぎるくらい日の光が届いていた。



こんな所抜けて、早く街に出ようよ。

そう、クロロのほうを向くと、クロロは優しく頷いてくれた。

そして、そっと手を引いてくれた。

ほら行くぞ、とでも言わんばかりに。

「うわー…久しぶりの街だぁ…!」
「そこまで感心するほどか?」
「そうだよー。クロロはこの良さがわかんないの……あ!あっち行こう、あっち!」

繋いでいた手をグイっと引っ張るが向かった先に、
クロロはほんの一瞬、眼を丸くした。


ウエディングドレスの飾られた、ショーウインドウ。


はコレを買いにきたのか。」
「違うわよー…コレは理想よ、理想。」


うっとりとドレスを眺めるに、クロロがぼそりと言った。


「あれ、ほしいか。」



「…は?」




思わず、ずてっとずっこけたくなった。
クロロはたまに、こんなわけのわからないことをいう。

ウエディングドレスがほしいって言ったら、
まるであたし達が結婚するみたいじゃない!

第一、この年で男と入ったらまさにそうよ!

クロロより二つばかり下、二十五歳ほどの
そろそろ結婚してもいい年なのだが…。
クロロの隣にいるうちはどうやら、本人としても結婚する気はない様子だ。

ただ、思いは募るばかりだというのに。

「……ほしくないって言ったら嘘になるかな…。でもこんなの一緒に着る人が」
「まぁ、ほしいことに変わりはないな?」
「…は、はぁ…」
「ちょっとまってろ」
「うん…ってえぇ!?クロロちょっと待ちなさいよ!」

呼び止めたが既に遅し、クロロは店内に侵入し…。

止める店員に無表情で一撃、重いウエディングドレスを肩に担いで店から出てきた。
その作業の早いことといったらない。
一般人であるには到底見ることが不可能だった程だ。



さすが、あれだけの人達をまとめるほどの力を持つ団長だ。
洋服くらい、盗むのは容易い。

クロロは、もう片方の肩にを担ぐと、そのまま歩き出した。

「え!?ちょ、ちょっとクロロっ!?」

突然の行動に顔を赤く染めながら、見えない前を向こうとして必死に暴れる。
ちょうど、の目の前にはクロロの背中があり、
クロロは、の腰部に手を回して担いでいる。

「おろしてよー…」
「まぁ、待て。もう少しだから」
「?…何がよっ」
「着けば分かるさ」

もう暴れる元気もなくしたのか、抵抗しなくなったを見て、
人知れずクロロは微笑した。

一方のほうは、クロロがこれから何をしたいかも分からず。
ただ肩に担がれて、もう抵抗しても無駄なことも知ったから抵抗も特にせず、
クロロが向かう先を予想してるしかなかった。



ウエディングドレスとを抱えて、
クロロは何処へやらへ足を進めた。









「ほら、着いたぞ」

クロロが少し体をかがめてを下ろした場所は、教会。
今は誰もいないらしく、しん、としていた。

一体誰が此処で祈るのかわからないほど奥まった所にあるらしく、
途中少し寝ていたは、クロロがどんな道をたどってきたのかもう覚えてはいないが、
大分人里はなれたところだろう。

もう随分と、人の通った形跡がない。

はあたりをキョロキョロ見回した。


木・木・木。


木ばかり。どうやら、林か森の中らしい。こんな所に教会があるなんて、
クロロよく知ってたな…と思いつつ先に歩き始めたクロロの後を追うだった。

「ねぇクロロ。此処で何する気?」

クロロに追いついたは前ばかり見ているクロロの顔を覗き込んでたずねた。

「…なんだと思う?」
「…わかんないから聞いてんのに…意地悪いなぁ」

むすっと膨れるを見て、また微笑する。
けれども、表情は直ぐに無表情へと戻った。

「ここ、入るの?」
「そうだ。」
「クロロって此処来た事あるの。」
「…結構な。」

ふぅん……。

クロロが此処に、本当に純粋な気持ちでお祈りしているわけがないなぁと
内心は思いながら、隣のクロロの横顔を眺めていたのだった。

、ちょっとコレに着替えて来い」

ずい、との前にドレスを差し出すと、クロロはほら、ともう一度おした。
は至極真っ赤な顔をしながら、ドレスを受け取ると
クロロが指差すほうの小部屋に入ってドレスに着替えたのだった。


一人じゃ着替えられないんじゃないかと心配していたのだが、
それは案外簡単なつくりになっているらしく。
上手くやれば自分ひとりでも十分に着られる仕組みだった。


「…着たけど…どうすんの?あたしにこんなの着せて」
「…こっちに来い」


―あっちに行けだの、着替えろだの、待てだの。

終いにはまたこっちにこい、か。

今日は普段の何倍もクロロの言うこときかされている気がした。
クロロはよってくるあたしを見て、にこりと微笑む。
下ろした髪の毛のせいか、その笑顔は普段の数十倍もやわらかくて、
あたしの心臓が、ドックンと大きな音を立てるのがよく分かった。


ときめいちゃダメじゃん、あたし。


それでもいうことを聞かない自分の心を、密かに恨みつつ
クロロの元に駆け寄った。


瞬間、クロロに抱き締められた。





「……!」
「……。」
「……」
「まさか、今日言うことになろうとは思わなかったが…」






クロロの心臓の音も聞こえる。
きっと、胸に耳を当てているせいだ。

クロロとの身長さでは、の顔がちょうどすっぽり、クロロの胸に収まる。
















































「今日、お前を殺さなきゃいけない。」












































「…!?」


驚いてクロロを引き剥がそうとするを、クロロは
今よりもっと強く強く、抱きしめた。


「痛…ッ」
「すまない。本当に…すまない。」
「何でクロロがあやまるの!?」
「……」
「クロロ…何かしたの?私を殺さなきゃいけないわけって何!?」





は叫んだ。

























「私……ずっと、クロロのこと好きだったのに!愛してたのに!!」































段々その声も、弱まっていくのが顔を見ずともクロロには良くわかった。











「答えてよ…ねぇ。」







「…オレの仕事のためだ。」
「…?」
「オレはお前を殺してしまうことがこんなにも…怖い。」
「…クロロ…」
「未だ信じられないんだ、自分でも。」




だめだよ、クロロ。

貴方は仮にも、団をまとめるかしらでもある存在、
それがそんなに弱くていいはずが無い。
弱い理由が私にあるのなら、躊躇しないでほしい、と思う。
私が貴方にそんな風に思われていたなんて知らなかった。
いつも私の首を狙っていたなんて。

それじゃあ、あのときの優しさは。
あの馴れ合いは。
あのときの、あの台詞は。

皆々、つくられたものだとは思いがたかった。
否、信じたくないとどこかで思っているのかもしれない。


の瞳から、いっぱいに涙がこぼれた。
弱弱しくクロロの背中に手を回し、
そこにたっているのが精一杯で、思い切りクロロに体を預けた。















クロロ。


















こんなに、後まで引きずって。

私が貴方のために死ぬこと、ためらうとでも思った?

私はね、クロロ。


クロロのためなら死んだっていい。






だって





私は、貴方のただのお友達に過ぎないけれど…

クロロを思う気持ちは人一倍。

誰にも負けない自身がある。

そんな大事な存在のためにできないことって

逆に私が聞きたいくらいだと。










「殺してよ。」










はふと、そうこぼした。


心のそこから零れ落ちた言葉だった。














































「本当に、殺しても良いんだな。」

「ダメって言ったら、余計にクロロがつらくなるだけ。」

「…そうか……」












































クロロは、抱きしめていたの方を持ってそっと話すと、
腰から短剣を取り出して、ぎゅっと握り締めた。


は硬く目を閉じる。


クロロは短剣を振りかざした。














































「…ん…んん〜!?」


のはずが。


「…っはぁ!な、何すんのよクロロ!!」
「…何って…キスしたまでじゃないか」
「違…ああ。また私をからかってたわけ!」
「……ふ」
「笑うなー!!」






ぽかぽかと胸を殴るを見、クロロはまたふ、と笑った。




。」




殴り続けるの両手を取り、クロロは続ける。
の、真っ青な瞳を見つめながら。


、結婚してくれ。」


は絶句した。

だ、だって有り得ない有り得るはずもない。
あのクロロが…クロロが告白だって!?
の知る限りでクロロはどこかからかうような感じで
こんな面と向かって愛の言葉を言うような人じゃない!


「どどど、どうなってんの!?」
「…ずっと前から思ってたことだ。」
「っ…!!」


真っ赤になったから瞳をそらさずに、
クロロは大真面目な顔をして問うてきた。

「それで、お前はどうなんだ。」

今度は、声にどこかからかうような調子があった。

「…というかさっき絶叫してたな。」













『私……ずっと、クロロのこと好きだったのに!愛してたのに!!』













思い出した…。

もう穴があったら入りたい。



「…成立…かな。」
「……」
「沈黙は肯定の証ととるぞ。」
「……はい。」

もう答えられなくて。ただクロロに赤くなった顔を見せたくなくて
こんな顔見せたらクロロは直ぐに調子に乗るから。

そんなとき自分は本当に歳相応の反応が出来ているんだろうかって思う。
クロロと大して変わらないのにクロロは私よりずっと大人びてて。



でも、そんなクロロが私は大好きで。

ずっと一途に恋してた。

今、其の恋が実る瞬間。



「じゃあ、これ渡しとくぞ。」
「え?」

私の手にすっとはめられたのはどう見てもエンゲージリング。
おまけに左手の薬指にはめるもんだから吃驚して
思わず手につけられた其のリングをまじまじと見つめた。
それを見てクロロが笑ったのを見のがす訳がなかった。


「ちょっと!笑うな〜!」
「女性の言葉遣いとしてそれはどうかな。」
「うるさい!」



素直じゃないけど

心の中では誰より

貴方のことが大好き。






























だからクロロ。




ちゃんと私を幸せにしなさいよ?




好きといったからには…ね。








































































+++++
あとがき
雪ちさんに捧げる夢で御座いますっ!
いつになったら仕上がるんだバカヤロー!って感じで
本当に雪ちさんの機の流さん感謝するしかありません。

遥か昔の一千打御礼!有り難う御座いました^^

*輝月