本当に綺麗でオレだけのものにしたかった

反面、オレが近付くことで彼女が少しずつ変わってしまうんじゃないかって


恐れていたこともあったんだ。




凛とした声は、何時までも耳に残っている。














































ス プ リ ン ク ル ・ オ ブ ・ レ イ ン












































服は着替えた。多少血の臭いがしてしまうことは、もう諦めた。

どんなに身体を洗っても、香水を付けてもその人自身から香る血の臭いは隠せない。


「うし。」


外は少し寒そうだったので、ジャケットを羽織る。

格好だけを見れば、少しおしゃれな小学生、とでもいった感じだ。

誰も、まさかこの男の子がかの有名なゾルディック家の息子だとは思わないだろう。


「いってきます。」


誰に言うでもなくボソりと言ったつもりだったが、イルミが後ろに立っていた。


「今日は早めに帰って来いよ。ちょっと話したいことあるから。」

「今じゃなくて良いの?」

「もう行くんだろ。それに帰ってきてからのほうが気が楽だろうし。」

「……?あ、ああ。わかったよ」


また仕事の話だろうか。

そういうと、門の所までスケボーを駆って行く。待ち合わせに送れそうだったから少しスピードを上げた。


彼女はまたあの店の前で待っているはずだ。















「キルア、五分遅刻。」

「おっまえ相変わらず時間に律儀だよな。」

「なかなか会えないんだから、当たり前でしょ?一分でも、一秒でも長く一緒にいたいよ。」

「ばッ…!ハズいこと真顔で言うな」

「えへへ、照れちゃって可愛いー」


彼女はふわりとしたイメージの服でまとめられていて、とても可愛い。

照れくさいから口に出してこそ言わないが、彼女は服のセンスがいいし、

大抵は彼女のイメージにぴったり合っている服だと思う。

それがまた、彼女の可愛さを引き立てる。



「じゃ行こっか、。」

「うん!」



そう言って少し先を歩くキルアの腕にくっついてくるのは、やはりまだ慣れない。

なるべく顔が赤くなるのを隠すようにキルアは更に歩調を速める。



彼女、は念能力者だ。

ハンターライセンスこそ持っていないが、念能力の使いこなしはもうプロであった。

彼女の能力は具現化系の占い師である。

綺麗で、全く殺しになんて関係のない仕事をしているに何度焦がれただろう。

彼女の見ている世界が見てみたくて、彼女と同じ視線に立ってみたくて

でも、それは到底かなうことのない願いだということは当然知っていた。

だから、少しでも近くにという存在があってほしかった。



不意に、が後ろで歩を止める。


「…?」

一瞬魅入られたようにショーウインドウの中を見ているかと思うと、それは華奢なシルバーネックレスだった。


「あ、何。それが欲しかったの?」

「ん?え、あ、そうじゃなくて…!!ちょ、違うから!ねえ!」


今度は店の中に引っ張っていくキルアを必死で呼び止めるも、キルアは何も言わない。


「悪いってば……そんな…高い……」

「まぁ、欲しいことに変わりはないんだろ?」


彼の屈託のない笑みに、応、と素直に答えるしかなかった。


「はい。」


買ったネックレスをそのまま首に付けると、キルアはちょっと下を向く。


「……え、どうしたのキルア。や、やっぱり似合ってな」

「似合いすぎだから。」



キルアは赤くした顔を隠して言い捨てるように呟いた。

シルバーのチェーンの先に、小さなエメラルド色をした石がはめ込まれている。



「値段からして、本物じゃないみたいだけど…ごめんな」

「キルアのバカ」

「え?」



予想もしなかった返答にキルアは顔を上げる。



「値段じゃないの。本物とか、偽者とかじゃないの。

 誰がくれたか、どんな気持ちでくれたか。あたしにはそれが一番大事。」


にこ、と笑ったは可愛いというよりも、綺麗だった。


全てを受け入れてしまうような儚さが垣間見えた。

























彼女と別れたのはついさっき。

「いっけな!電車乗り過ごすー!!」

時計を見て慌てて手を振ったに手を振り返すと、自分はすぐ家に帰った。

とても楽しくて、そしてとても疲れた。






「キル、ちょっと。」

帰るなり兄貴に呼ばれた。そういえば話があるとか言われていた気がする。


部屋に入ると親父も待ち構えていた。

「何、仕事関係の話?」

「まぁな。」

「で……今度は何?」

「今度の仕事は……」


めずらしく、少し口篭る親父。

じらさないでほしい、と思う反面不安になる。


「キル、を殺せ。」

「…え?」


言葉の意味が、一瞬分からなくなった。


殺せ?を?……なんで。



「な、何でなんだよ!親父達だってとのことは認めてたじゃんか!」

「オレが殺してほしいんじゃない。仕事の依頼だ。」

「…なら断れば――」

「断ったところで、は他の殺し屋に殺されるだけだ。」

「…!?」

の存在が邪魔な輩がいるらしい。依頼主自体が殺人経験のある奴だ。

 お前は知らないだろうが…彼女には普段何十、何百というガードマンがついてる。

 それだけ親にとっては大事な収入源な訳だ。」



知らなかった。あんなに近くにいたのに、彼女が占い師だということしか知らなかった。


上辺だけの彼女しか。



「これでもオレはお前に気を使ってやったつもりだ。彼女が……お前に殺されるか、見ず知らずのやつに殺されるか。

 オレなら前者のほうがいいだろうと思っただけだ。

 彼女を思うなら…お前の手で殺せ。他の誰かに殺される前に。」



本当に珍しかった。親父が此処まで喋ることは。

信じたくなんてない。だけど、信じなければは見ず知らずの奴に殺されて一生に幕を閉じる。








それなら、せめてオレの手で。



















次にと会ったのは二日後だった。

人気のない公園。酷く雲の押し寄せている日で、空の見える隙間すらない。



「珍しく都合があったねー」

「ああ。」

今日、しなければならないことを考えると楽しい気分に何て到底なれるわけがない。

公園前を歩いていく恋人同士が笑いあいながら歩いているのが、殺したいほど羨ましい。

どうして自分達だけこんな目にあわなければならないのか、と。




殺す、という単語にふと疑問を覚える。


「ねぇ、

「んー?」


こんな質問をしたら、また怒るのかもしれないけど。


「オレが怖いと思ったことないの。殺し屋って、しかもかの有名なゾルディック家の息子だって知って。」

「最初は怖かったよ。何人もの人を殺してきたんだなって思ったら。

 でも、あたしが見てきたキルはそんなんじゃなかった。凄く素敵で、優しい人だった。
 
 それにね、キルア。」


彼女は、オレを見据える。


「あたしはキルアのこと信じてる。無差別に人を殺したりするような人じゃない、って。」


ちょっと笑った。やっぱり彼女は綺麗で、儚い笑顔を見せた。










なぁ、気付いてた?



お前にオレが、一度も好きとは言ったことがなかったことを。

付き合ってくださいと言われて、いいよ。としか答えなかったことを覚えてるか?



本当は薄々感じてた。

やっぱりオレは、誰か一人の人を一生大事にすることなんて、出来やしないんだって。






好きと言ってしまったら、未練が残るような気がして。





でも今なら分かる。彼女と別れなければならないこの瞬間に感じる。

好きといわなかったほうが、きっと。




、好き。大好き。お前のこと、愛してる。」

「な、何よ急に。」

「…餞別。」


彼女に訳も話せぬまま、一振り。普通なら即死だが、彼女は念能力者だ。

思った通りに力が入らず、彼女に意識を残してしまう。


だけどそれも、もう直……。








なるべく外傷をなくそうと努力したが、血は飛んだ。











返り血。











オレを狂わせていく。













愛しい人の血が、オレを染め上げる。















顔に、手に、髪に、体に。














「ぐふっ……キル…」


口にためた血を吐き出すのが精一杯なはずだ。

何で。


何で喋る?

何で喋れる?




「あだ…し……がはッ」


見ていられない。でも彼女の目が確かにオレを向いてたから。




オレも彼女をずっと見つめ返したんだ。





「信じで……た……!」

「……ッ…」




その言葉が、過去形になっていることに気がついて。

同時にそれはもう、進行形になることはないどころか




二度と紡がれることもない。






…オレ、オレのことを殺したかったわけじゃないんだよ!

 依頼だよ。仕事依頼だ。オレが殺さなきゃオレ以外の誰かがを殺しちまう…!

 信じてくれ…もう一度だけ…信じててくれよ……。」




聞こえているのか分からない。はとなりでまだ少しふるえていた。

きっと、もう意識はない。



彼女を横にして、そっと首と膝下に手を入れて抱きかかえる。













泣いた。



キルアの涙はつ、と頬を伝った。


それはすぐ目の下に付着していた血と混ざり合い、
















血の涙に変わる。



















赤い雫が彼女の上にこぼれた。

彼女の頬に落下して、ほんの僅かな面積が赤く染まった。





悲しくて、悲しすぎて、涙は止められない。




「……好きだったよ、。」




不意に雨が降る。

ぽつりぽつりと

二人に降り注ぐは














涙雨。


















































































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あとがき

スプリンクル・オブ・レイン(sprinkle of rain)

和訳=涙雨。悲しみの涙が化して降るといわれています。

素敵な言葉だったのでつい拝借しましたが…どうでしたか!(うひゃー

テスト期間中に書いてるのでちょっと頭可笑しいかもしれません。(意味深


*輝月