初めから、わかってたよ。

オレにはアンタを笑わせることなんか

出来やしないんだって。














































-るい-








































ひたひたと廊下を歩いていた。
今日も一日家で過ごす。
特に仕事の以来もないはずだった。

こういう日は暇で暇でしょうがない。
何か新しいものが無いかと
家の中を探すのにはもう飽きた。



「ゲームでもすっか……」



誰に言うわけでもなく俺が呟いた言葉は
一人きりの廊下にいやに寂しく響いた。

なんだこれ、余計にオレが孤独みたいだ。

そう思いながら自室に入ろうとして
開けかけたドアをそのままに
オレの視線は廊下の奥へと注がれた。

今、確かに

誰かの気配がした。



「…ぁ…キルアッ!」

こちらに気付いて手を振ったのはだった。

「んな、どうして…」
「いやー、久々に近くに寄ったもんで…ちょっと寄りにきた。」

頬を軽く引っかいて、笑った。
そんな姿は3歳も年上には見えなかった。

「キルア、今暇なの?」
「…あぁ」
「じゃ、あたしと遊んでよ!」
「じゃぁ、ゲームする?」

オレは意地悪く微笑んでやった。
殺し屋としての強さははオレを上回る位だった。
一度、が殺る所を見たことがあった。

とても綺麗だった。



人が死んでいるのに

目は自然とへと注がれて

声すら出なかった。

殺しをするときの彼女は

至極綺麗な表情をしていた。

強く憧れた。





オレもあんなふうになりたいって。





「えー、キルア絶対勝つじゃんッ!」
「それだったら、ハンデあげてもいいけど?」
「なにそれ、ムカツク!年下のクセにッ」


普段は其の顔から殺しなんて連想できない。
ただ、ほのかに香る血のにおいだけは
どんなに体を洗っても落ちない。
唯一彼女が殺し屋であることを
実感させられる証拠。


オレはテレビの電源を入れた。
招き入れた
久しぶりだなー、とか言いながら
オレの部屋をぐるぐる歩き回っていた。

カセットをさす。いわゆる格ゲー。
これなら一人のときに大分やりつくしたから
に負けることは先ず無いだろうけど。

「あ、それ…前来たときもキルアやってたよね。」
「そうだっけ?まぁいいや。うし、はじめるぜ。」







そういってはじめたゲームだったけど
正直オレの頭の中ではのことばかりだった。

隣に居るのが嬉しくて
いっそのことずっとオレの隣にいてくれればいいと。
初めてオレは自覚した。
こんな時に、こんな状況で。




のことが、好きなんだと。




「なぁ、…」
「ん?何〜?――っあーまた負けたッ!」



のキャラが地面に叩きつけられて、
画面には「K・O」の二文字が大きく浮かんでいた。
ため息とともに後ろに両手をついてはこっちを見た。



「で?どうしたの、キルア」



画面ではオレのキャラが勝利のポーズをしていた。

けどオレは、勝利のポーズには程遠いような気がした。


…オレさ。」


急に、決心がついた。
何もかも吹っ切れた。
「あの日」見た「あの光景」
―――兄貴の部屋でも出来事―――も。

オレはの唇に自らの唇を重ねた。
の肩を掴んで
深く、深く。

テレビから流れるゲームの歌のみが
静かな部屋に響き渡った。

離してからもは何も言わなかったし
オレも何も言えなかった。

ただ、沈黙が痛かった。



先に口を開いたのは


「キルア…」

静かに名前を呼んだ声は、やはり綺麗だった。
透き通っていて、思わず聞きほれた。

「あたし……ごめ、やっぱムリ。」

の声が震えていた。
なぜかは分からない。
オレの目の前で震えている
オレは手を出すことすらできなかった。

ただ分かったのは

オレとは同じ気持ちじゃなかったということだけ。


「あたし、キルアのこと…好きだった。
 年下とか上とか関係ない。愛してた。」
「…ならなんで」




返事の帰ってこなくなった彼女を見た。

其処には涙を溜めたの青い瞳。
まるでサファイアのような輝く瞳。



「あたし…イルミに…っ…
 もう、あたしどうしたら……」
「……っ」

「キルアも…見たんでしょう?あの時…」

の手がかすかに震えていたのが分かったけど
オレは気付かない振りをした。


「でも、そんなの関係無…」
「キルア…。」

制止された。
の目はいつもに増してはっきりとこちらを見ていた。


「あたしは、キルアの気持ちにはもう…
 答えられなくなっちゃったのよ……」



今、考えたら。




偶然に偶然が重なりすぎていたのかもしれない。


あの時


オレが兄貴の部屋へノックせずに入ったこと。

兄貴が部屋に鍵をかけていなかったこと。

がオレに会う前に兄貴の部屋に行ったこと。

他の家族は皆家を空けていたこと。




偶然に偶然が重なって
オレはが兄貴に…抱かれている所を見てしまった。

「………」

は驚いていた。
急いで部屋の戸を閉めて駆け出したオレに手を伸ばした。
キルア!
そう、名前を呼びながら。
兄貴はその時も相変わらず無表情だったけど
オーラからして機嫌が悪かったのが分かった。




、オレ…あのこと全然気にして」
「だめ。もう、駄目なの」
「何で!」
「キルアの気持ちは嬉しい。けど、もうキルアのことは好きじゃない。」


「…それ、本気か」



「…そうよ。」




の声は、どこか震えた調子があった。
やはり、まだ完全に泣きが収まったわけではないらしい。


「何で泣いてるんだよ」
「……」

は何も言わずに立ちあがった。
ゲームのコントローラがの手から抜け落ちて
床に弾けた。

「おい、ちょっ…」
「あのね。」
「…?」


は、との前に立ったままこちらを向かずに話し出した。


「今日は、キルアに別れを告げるためにここに来たの。」

「は、何言って…嘘ついてもバレバレだ――」
「嘘じゃない。」


怒ったような、其れでいてやはり声は震えていた。
がこちらに背中を向けていなかったから
顔其処見えなかったものの、
今は必死に泣くのをこらえているのが手に取るようにわかる。
努力しているのが分かる。

必死で、伝えようと。

オレのためにここに来たんだって。

だから、オレも信じたい。

どんな現実でも。

ついさっきまでそう思っていたのに




―――オレは、弱い。




アンタみたいに、強くない。

否、アンタも弱いのかもしれない。
だからオレに面と向かって言わないのかもしれない。

だが、オレが傷つかないように
わざとそうしてくれているのかもしれない。

ずるい。
はずるい。
優しいくせに
逃げるから。





本当の気持ちはの背中からなんかじゃ伝わってこない。
唐突に、酷く、の背中を抱きたくなった。
後から抱きしめたかった。
力いっぱい。が他に何も考えられなくなるように。

それは、行動に移せず
適わぬまま。

…」

小さく小さく、そう呟く事しか出来なかった。


「ばいばい、キルア。…でも」

オレは怪訝そうにを見た。



「あたしね、これから殺し屋辞めてハンターになろうと思ってるんだ」

その時オレは、初めてハンターという言葉を知った。
家の中に閉じこもり、
ゲームに熱中していたオレだから
あまりに外の世界を知らな過ぎた。

「だから、キルアが本当にあたしのことを好きなら。
 そして、あたしと同じように今の仕事に飽いたなら。
 あんたもハンターになってあたしくらい見つけてみなさいよ。」

実に挑戦的な台詞だった。
オレには、どう考えても
「追いかけてきて」
と言っているようにしか聞こえなかった。


「……捕まえて見せるさ。
 ……ハンターになって、ハンターとしてな。」


決心した。
オレはハンターになりたい。
今すぐは無理かも知れない。

だけど、いつか追いついてみせる。
何処までも追いかけてやる。





















お前の其の言葉を信じて。





















そしてはいなくなった。

今でも生きているのかどうかすら分からない。
だけど、オレは何時でも信じてる。
今まで人を信じたことなんか無かったオレが。

また一人、客の出入りが無くなったゾルディック家の一室で
オレはいつでもハンター試験の情報を探っている。


























が最後に残した一言。













































「待ってる。」


























































それだけが、今の俺を動かす原動力。































































+++++
あとがき
シリアス…ですか?
でもまだ分かりませんよね!
これからどうなるかは…考えてませ(潰)
いかがでしたか?(~_~;)
ご感想いただけると嬉しいですw

*輝月