「…あのー、デイダラさん?………ついてくるな。」


そろそろと後ろを振り返ったが、眉間に皺を寄せて物凄く嫌そうに言い放った。


「ついてくるなっつーか、オイラはただ目的地に行こうとしてるだけなんだよ。うん。」


あっけらかんと、デイダラが答える。


「…だからー……。この先には私の部屋しかないってこと、知らないとは言わせませんよ?」

「知ってるけど?」

「(……こいつ…)」


思いっきり横っ面を殴ってやろうかと、思った。
















「…で?私の部屋に何か?」

「恋人に会いに行くのに理由なんていらねーだろ、うん。まぁしいて言うなら“会いたいか…」

「や、私別に会いたくないですから。…っていうか恋人じゃないし。いつの間に恋人になったんだよ。」

「照れ隠しなんてすることないのに!うん!」

「…はァ…」


思わずため息が、出た。


任務から帰ってくるなりストーカー行為に出ると思ったら、今度は恋人発言だ。

普段から、自分に好意を寄せていると分かるような行動はしてくるものの、今日は一段と変人である。



「……というわけで、」

「何が、“というわけで”なんだか全くわかんないんですけど。…取りあえず部屋に入るの止めてください!」


話を切り替えて部屋の中に入ってこようとするデイダラを、必死で押し返す。

力じゃ向こうのほうが勝っているし、デイダラ自身もそれを分かってやってるような感じがあるから、タチが悪い。


「ったく押すなっての、うん。」


デイダラは踏ん張るの体をひょいと、軽々持ち上げると、ごと部屋の中に入っていった。


「サソリさん!ゼツさん!いるんでしょー!貞操の危機がッ!誰か助けてくだ」


さい、という最後の二文字はアジト内に響くことなく、ドアは閉められてしまった。















「助けたほうが良かったんじゃねえか。」

「…カカワルト面倒ダ。ホットイタ方ガ身ノタメダゾ。」
「…でもはデイダラのこと嫌いなのかな……。」


の最後の叫びを聞いたサソリとゼツは、軽くため息を吐きながら話していた。


「傍目には嫌ってるようにしかみえねぇな。」

「愛情ノ裏返シダッタリシテナ。」
「本当に嫌いだったら、ならデイダラくらい吹っ飛ばせそうだもんね。」


ゼツの言葉に、確かにな、とサソリが微笑する。


「ま、オレ達は所詮傍観者だけどな…。」

「楽ダナ、コノ立場ハ。」



は、助けを求める相手を間違えたようだ。













「…ほんとに、何も用がないなら出てって欲しいんですけど。」

「用があるなら出て行かなくていいってか?うん?」

「揚げ足取るな!…ほんと、そこにいられると気が散るんです。」


は任具を磨きつつ、ずっと傍にくっついて離れないデイダラをしっしっと追い払う。


「…まぁ用は、あるっちゃあるんだが…」

「何ですか。」

「………」


言おうか言うまいか、迷うような仕草で目をキョロキョロさせているデイダラ。

その目が、漸くを見た。そして、手をとる。




「…オイラ、」


言葉を切って、デイダラがポケットから取り出し、に着けたのは


「…コレ、どういう意味ですか。」


紛れもなく、


「…そういう意味、だよ。うん。」



エンゲージリングと呼ばれる指輪だった。




「(しかも薬指ときた…)」


は磨いていた忍具を机の上におくと、デイダラのほうに向き直った。

デイダラはらしくもなく赤くなっている。


――…おいおい、コレを渡すことよりも、さっきまでの行動のほうが十分恥ずかしいことだと思うんだけど。


さっきは顔色一つ変えなかった(寧ろ楽しそうにしていた)くせに。…全く持って訳がわからない。


「…こういう改まったことは、何か苦手なんだよ。うん。」


怪訝そうに見つめるの瞳から意図を察したデイダラが、もごもごと篭った声を出す。






「私は……嫌いです。」

「……!?」





そんな彼をみて、は深くため息を吐きながら呟いた。

デイダラは耳を疑ったが、俯いてしまったからは表情が読み取れない。


「…デイダラさんなんて、だいっ嫌いです。」

、」

「やたら抱きついてくるし、ストーカーするし、私の部屋に勝手に入ってくるし。」

「…………」


好きだからこその行為だったのだが、そういわれてはデイダラも反論できない。

思わず、言葉に詰った。



「それに…………」



は漸く顔を上げたかと思うと、急に立ち上がった。

驚いているデイダラを尻目に、は、



「………!」



すこしだけ背伸びを、した。






「…苦しくするから、大嫌いなんですよ。」






ほんの一瞬のできごとだった。



デイダラは驚いた表情を隠しきれずに、思わず“そこ”に手を当てる。


「今……」

「…さ、分かったら早くでてってください。」


ぐいぐいと背中を押すに抵抗することもなく、デイダラは部屋の外まで追い出されてしまった。

後ろでドアが閉まる音がするのにも振り返らずに、ただ呆然とあけているばかりだった。


「…って、あんなキャラだったっけか?」


しばらくは、何も考えられそうになかった。






ドアをはさんで、向こう側。

は相変わらず任具を磨いていた。その姿は先ほどと全く変わらない。

だが、さっきから十分以上同じクナイを磨いていることに彼女は、まだ気付かない。






毒性
ある














オマケ



「ああ、起きたか。」


の姿を確認して、サソリが声をかけた。


「…サソリさん、おはよう御座います。」

「今日は珍しく寝坊したもんだな。」

「…それが…昨日は上手く寝付けなくて寝不足なんですよ…。」


ふぁ、と口元を隠しながら大きく欠伸したの後ろから、同じように欠伸をしたデイダラがおきだしてきた。


「テメェも漸く起きたな。」

「昨日は上手く寝付けなかったんだよ。うん。」


その言葉にがピクりと反応する。


「…なんだ、二人して。何かあったのか。」

「「ないない。」」


げ、とが眉間に皺を寄せた。


「デイダラさんとハモっちゃった。今日は厄日ですね。……それでは、私は顔洗ってきます。」


何故か早口に捲くし立てると、大またで外へと出て行ったの後姿を、サソリは怪訝そうに見た。

そして視線をそのままに、デイダラに言った。


「デイダラ、お前なんかやったろ。」

「…なんかやったのはオイラじゃねーよ。うん。」


デイダラもまた、の後姿を見つめる。

その視線は、左手薬指にはまっていた銀色の物を、確かに捕らえていた。









「あ。」


顔を洗っていて、結局外さないままでいたことを思い出した。

昨日はコレを外すか外さないかで散々悩んだのだ。…勿論、人目を気にして、である。

左手にはめられたリングが、朝日を受けてきらきらと光っている。


「……」


シンプルなシルバーリングを暫く見つめていたが、立ち上がって顔を拭いた。


「…綺麗だし、このままでいっか。」


本人は気付いていないだろうが、滅多に笑わないその顔は、何処か笑んでいるようにも見えた。















「+星に願いを+」二周年記念企画「星夢祭」にて

written by 輝月流星

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