木の枝にまたがる。手には高機能双眼鏡。 どこからどう見ても、あやしい少女が約一名。 あー格好いい…。 この地球上にあんなに格好いい人が存在していいのだろうか? いいんだ。あの人だからこそ許されるんだ。 それに加えてとっても強い。 これ以上に素敵な人がいるだろうか! 出会った瞬間の衝撃はそれはそれは凄いものだった。 矢で射られたかの様な、急激でかつ刺さるようなものだった。 自分が暗部に入隊出来たという喜びにまして興奮する何かがあったのだ! 自分でも馬鹿だと思うくらいイタチさんにホレた。 任務外の彼は全く違う表情を見せる。 とりわけ弟君のサスケにはよく笑いかけている。 その笑顔を見るたびに苦しくも嬉しくもなる。 自分にその笑みが向けられたことがないのは苦しいけど 他には絶対見せないような笑顔を見るとクラっとしてしまう。 物陰にひっそり潜みつつイタチさんを観察するという、 所謂ストーカー…ではなくイタチさんのファン的行為を行っている最中だが、 ついついキュンとしてしまう。 普段最低限の会話しかしないためにこういう一面は貴重である。 …逸る気持ちを早く伝えたい。 イタチと一つ違いの、十二歳の春。 桃 色 の 片 想 い 、 桜 色 の 両 想 い 手紙なんて邪道。直接口で。 呼び出すなんてベタな考えも思いついたけどイタチさんが来ない可能性が高いので却下。 どこかにいるイタチさんをとっ捕まえて手っ取り早く思いを伝えるべきだ! そうと決まれば、行動開始。 小一時間後。 「イタチさーん…」 一向にイタチさんが見つかる気配がないどころか、今日はやたらと人の量が多い。 イタチさんが任務の入っていない日付を選んだら、丁度祝日に重なっていたからだろうか。 人ごみの中から見つけるのは難しそうなので取り合えず屋根の上へと移動する。 「ふぅ…何処に行ったんだろう…」 「探し物か?」 「えぇそうなんですよ…大事なことを伝えなきゃいけないのにぜんっぜん見つからなくて…」 言葉が止まる。ふと、自分は誰と話しているのか疑問になった。 「(今、あたしは誰と喋ってんだっけ…?)」 馬鹿にも程がある。 「へぇ…探し物ってこれのことか?」 「え?」 これ、と物のように言うので違うなと頭の中で否定しつつ、反射的に後ろを振り返った。 座りこんだ自分のはるか上に、丁度日をさえぎるような形で誰かが立っていた。 一瞬目がくらんだが、一つに結った黒い長髪とその雰囲気で誰かが分かってしまう。 「イ、イ、イイイイイイ!!」 「落ちつけ」 「お、落ち着いていられますかってんだァ!」 「落ちつけ」 その後もはふーとかひーとか言いながら何とか落ち着いてくれたようである。 「イタチさん…」 「それで…なんでオレのことを探してたんだ。誰かから伝言か。」 「いえ、その、あの……」 貴方への告白です、なんてそんな馬鹿なことがいえるだろうか。否、言えなくても言うしかない。 よくよく考えれば二人っきりの上邪魔者はいないし、またとない絶好のチャンスである。 こうなりゃ玉砕覚悟で行くしかない! の中に潜む何かが決死の判断を下した。 「あのイタチさんに伝えることというのはその…」 「………」 黙られると逆にこまるのだが。 「あたし、イタチさんのこと好きなんです!!」 い っ て し ま っ た 。 終わってから一気に頭の中がパニックになる。 抑えきれず、下を向いて目を硬く閉じる。何だか暑いと思ったら耳に熱が集中しているように感じた。 ヤバい、顔が赤くなってしまっては上を向けないじゃないか。 全身の力が抜けてへたりとその場に座り込むと、イタチさんがかがみこんだ。 グイ 「ふぁ…?」 ガクン、とあごを掴まれたかと思うとその正体はイタチさんの大きな手ではないか。 「え、あの、その…なんでしょう?」 何でしょう、などと聞くような状況ではない。 近い。 近すぎるのだ。 ああアレか、イタチさんは目と目を合わさせてあたしに例の何とか写輪眼をやるつもりなんだ。 「いやあぁぁあすいませんすいませんすいませんあたしが悪かったですよぅ!! イタチさんに告白するなんて身分をわきまえない行動をして申し訳ありませぇぇんん!!」 アーメン!!勝手に神に祈り始めたをよそに、イタチはいよいよ盛大なため息をついた。 「。」 「は、はい!」 癖で、はきはきとした返事を返したはいいが、次の瞬間息を呑んだ。 確かにイタチさんと視線がかみ合ったが、その目は写輪眼などではない。 その代わり黒々とした吸い込まれるようなキレイな黒目と長めの睫があった。視線を逸らせない。 心臓が爆発しそうとはまさにこのことだと確信した。 「まさかお前……オレの気持ちに全く気付いていなかったとは言わせないぞ。」 「―――………え」 今、何と? 「うっへえええぇぇ!?」 「反応が遅い。」 くすりとイタチは笑う。只単に自分のおかしな声と反応に笑っただけなのだろうが… 「(す……素敵……!!)」 ほんの僅かだが目を細めて口角を少しばかり持ち上げるだけの仕草。 それはサスケにみせるようなもので……特別な…もので……。 「信じていいんですかね…こんな夢みたいなこと。」 「オレのほうが信じられないくらいなんだがな。交わす言葉もろくにないし、普段も会わない。 ……見ては来るがお前はなかなか話しかけてきてはくれなかったからな。」 「な、何の話をしてるんですか?」 「……何だと思ってる?」 ギクりとした。 「えへへー…分からないから聞いてるんじゃないですか」 「……お前は暗部の覗き部隊にでも入ってみるか?」 「いやぁああああ!!」 イタチさんは感づいていたんだ。その、あたしがストーカ…じゃなくてイタチさんのファン的以下略をしていたことに。 恥ずかしいったらありゃしないわ! でもそれにはちゃんと意味があるのであって。 余計なお世話かもしれないけどイタチさんのような人によくいる隠れファンは相当危ない人も多い。 だからそんな危険なファンからお守りするために監視しているのだ。 隠れファン……あ、何か墓穴掘った気がする。 「分かってるかもれませんけど…」 未だイタチさんに触れられていることにどぎまぎしながらも 「あたし、嫉妬深いですから覚悟しといてくださいね?」 自然と笑みがこぼれたのはイタチさんが魔法でもかけたのだろうか。 きっとそれは、イタチさんの笑顔なんだろう。 すると、イタチさんが今度はちょっと違う笑みを見せた。 笑うこと自体めったにしない彼だが、任務の時などに時たま見せるその表情。 大胆不敵な笑み。 「ほぅ…それは怖いな…だが」 上を向かされていたの視界が、今度こそ真っ暗になった。 同時に感じる唇への感触。 「ふぁ……」 呆然とするにイタチは怖いほどの笑みを向けていった。 「嫉妬深いといえば…オレのほうが嫉妬深いかな。お前も覚悟しておけ。」 おそろしい。 本能ではそれを感じ取った。 他の男の人と喋っているところをイタチさんに目撃されただけでも地獄へ一直線、まさにそんな感じ。 何か言い返そうかとも思ったが、その表情には是非を言わせぬ圧倒感があった。 「(あはは…何と恐ろしやイタチさん…でも)」 浮気なんか絶対しないから安心してください。 少なくとも今の私には貴方しか見えないんですから。 「それと一つ…頼みごとがある。」 「はい?」 「イタチでいい。」 イタチでいい…? あ、なるほど。 「ぷっ……」 「……何笑ってる?」 何だか可愛く見えて。 「何でもありませんよ、イタチ。」 イタチだけに主導権は渡さないんだから。 ++おまけ 「姉ちゃーん」 「サスケ、おはよう」 あの日以来イタチの家に寄るようになっていたあたしは、遊び相手を欲するサスケに大分なつかれていた。 普段ならイタチがくるまで相手をするなのだけれど、今日は既にイタチがいた。 サスケはいつものように飛びついてくる。 「あ。」 イタチの目が。 「サスケ。」 イタチの声変わりしきっていない低い声がサスケを呼ぶ。 「何?」 「明日遊ぶと約束したが…やめにする。」 「ええー!なんでー!」 「こうやってに遊んでもらってるんだろ」 サスケにいいつつさりげなく抱きしめてくるところなど物こそ言わないが行動で語っている。 オレのものだ、と。 「ちょっとイタチ…」 「言ったよな?」 「オレは嫉妬深いと」 だからって大分歳の差がある弟にまで嫉妬するかこの人は。 不敵な笑みを浮かべたイタチに、は少しだけ怯えた。 +++++ あとがき イタチで甘!イタチで甘!と繰り返し連呼て書き上げた産物。 甘を描くときは所々で「甘だ甘!」と言い聞かせなければなりません。 筆(キーボード?)の進むままに書いているとシリアス路線になる不思議な思考を持ってます。 *輝月 |