「何でだよ………!」 デイダラは、珍しく声を荒げた。 「約束するって言ったのはお前じゃねぇか…!!」 隣でサソリが、静かに、彼をなだめていた。 キ ミ の 残 り 香 「デイダラは、何処行くんだ。」 無言でアジトを出て行ったデイダラを見て、イタチが問うた。 「……ああ、やっぱり行ったか。」 「やっぱり……?」 「ほら、だよ…。今日はの命日だからな。」 そう言うサソリの目は、何処か悲しげだった。 「ああ、あれから一年か…それならばオレ達も行ったほうが良いんじゃないのか。」 「それがな…あいつ、墓の場所を教えようとしねーんだよ。まぁ無理もないけどな……。 オレ達が知ったところで、あいつと一緒に行っていいような立場でもないだろ。」 デイダラはまえもって「一人で行くから」とサソリにわざわざ告げて言った。 サソリの言うとおり、デイダラとはとても仲が良くて、お互い好き合っていたのだ。 「でもまぁ…一年経って大分落ち着いた方なんじゃねぇのか?……あの時は相当酷かったからな。」 遠い目で言うサソリに、イタチがさらに問う。 「…ほう…。差し支えなければ話してくれないか。……そういえばオレは死因しか聞かされていなかったな…。」 「別に良いぜ。ちょっと長くなるけどな。」 サソリはソファに座りなおすと、小さくため息をついた。 事件は、今日から丁度一年前に戻る。 「デイダラ、今日は何の日か覚えてるー?」 「………なんだったっけ。」 「ひっど!あんだけ忘れるなって言ったのに!!…この…」 「はいはい、冗談だっての。今日は…オイラ達が付き合って一年。だろ?…うん?」 その返答には無邪気な笑みを返す。あたりーと歯を見せて笑った。 「あーでも今日任務入ってるんだったー……」 「オイラと旦那も一緒の奴だろ。確か結構面倒な奴だったような気がするな…。」 デイダラもため息をつく。 今回のものばかりは、少し難易度が高いらしい。…油断は禁物だ。 「でもオイラ達ならあっという間だろ、きっと。さっさと終わらせて花見行こうぜ!…うん!」 デイダラの言葉には幾らか安心して、笑っていた。 「…チィ…!…おい!大丈夫か!?」 「……ッ…ぐふッ」 ほんの一瞬だった。手元が僅かに狂っただけだった。 この敵の量じゃ体力の一番無いは疲労も早かったのだろう。 オレ達も数多くの敵を倒した。だがそれでも、にまわる敵の量だって半端じゃなかったはずだ。 彼女の腹部に、見事に深々と突き刺さったそのクナイ。 普段なら軽々と避けるはずの彼女は、疲労のために一瞬それをはじくのが遅れた。 それも、当たり所が悪かった。 「おい…まさか死ぬとか…言わないよな?…うん!?」 「デイダラ!まだ敵は残ってんだ!んなことしてたらお前までやられるぞ?…倒してからにしろ!!」 「だってが…!」 デイダラの返答に、オレはやむを得ず言葉を返す。 「もう、助かりはしねぇって言ってんだよ。その傷見ろ。」 「…………。」 デイダラが押し黙った。黙って隣で鳥を羽ばたかせると、オレに乗るように言う。 「旦那。……オイラの粘土、全部使ってもいいか?」 を片腕に抱きかかえたまま、デイダラはオレに問うた。 「………ああ、存分にやれよ。」 「ありがと、旦那。」 目元が笑っていなかったが、それでも口元を緩めてデイダラはおかしな笑みをオレに返した。 だがその視線も、すぐに下の奴等へ注がれる。 そう、これ…デイダラ十八番の「C3」を使えば周りまで巻き添えになるのだ。一般住民の家もある。 ……そこは関係なかったから手を出さない手筈だった。 が、もうデイダラにはそんなことどうでもいいんだろう。 「……もう……お前ら全員、死んじゃえよ………うん。」 爆弾投下直前にデイダラが静かに零した一言を、オレはただ聞いていることしか出来なかった。 全てが片付いた後、オレとデイダラはアジト近くの地に足を降ろした。 デイダラはを半分抱きかかえるようにして横たわらせると、そのままじっとしていた。 の顔からは既に生気が失われている。……出血量からしても、もう……。 「言っておくがオレは、そこまで大きな傷の治療は専門外だぜ。」 「…………おい」 「……?」 「。…、!」 デイダラは只管に名前を呼んでいた。すでにオレの言葉なんか聞こえていないだろう。 はまだ死にきっていないらしい。 デイダラの呼びかけにこたえたのか、ほんの少しだけ目を開けた。 「……デ………イ……」 「!お前……」 は辛そうに顔を歪め、苦しそうに咳をした。 その口からは沢山の血がこれでもか、というほど出てきた。途端にデイダラの顔が青ざめる。 「本当にお前…死ぬのか……。」 「げほッ…ッがは…」 「オイラを残して…死ぬってのか……」 「ご…め……ん……」 「…ふざけんなよ…!」 「おい…よせ、デイダラ。」 届いてないとは知っていながらも、声をかけずにはいられない。 オレですらそう思うほど、デイダラの状態は可笑しかった。 「死ぬなよ!死なないでくれよ!オイラだけを残して死ぬんじゃねえよ!」 「…デイ……。」 もうそろそろ、のほうも限界なはずだ。現に彼女の瞳は再び閉じられようとしている。 デイダラ自身だって、気付いている。 それだけ声を張り上げるだけ、無駄なんだってことに。 「ごめ……やくそ…く……」 「………」 「いっしょに…守れ…なくて……」 「……」 「ごめんね…。」 静かに、はその生涯に幕を下ろした。 最後まで聞き届けたデイダラは暫く静かにしていたが、わなわなと震えだした。 「何で……何でなんだよ………」 デイダラの肩に手を乗せた。……慰めにかけてやる言葉なんて一つも知らなかったが。 …このままではデイダラが可笑しくなってしまう。既にいつもの冷静さは欠片も残っていなかった。 「何であんな連中に……が殺されなきゃいけねーんだよ!!」 普段しないような声を出し続けていたデイダラはその言葉を最後に、怒鳴ることを止めた。 不思議に思い、顔を覗き込んだオレは目を疑った。 デイダラの眼からは……静かに、静かに涙がこぼれていた。 「…、アジトに運ぶか?」 目の腫れたデイダラに話しかけると、デイダラは静かに答えた。 「…旦那、悪いが旦那は…もう、アジトに戻ってていいから…… 頼むから、オレとを暫く放っておいてくんねーか…うん。」 「分かった。あまり遅くなるなよ。」 「………。」 オレはいつもの口調を取り戻したデイダラを見て一息つき、そのまま素直にアジトに戻った。 …あんなアイツを見た後では、それ以上何か言うことも、無理矢理その場にいることも出来なかった。 「……だからアイツはが死んだのは自分のせいだ、と少なくとも思ってるはずだ。 毎年墓参りへ一人で行く理由は……多分生前のとの約束があったからだろうな。 その日も、任務が終わり次第“二人きり”でその場所へ行こうとしてたらしい。 ……何にせよ、デイダラにとっちゃ一世一代の恋だったからな。」 狂うのも無理は無い、とサソリは言った。 イタチはそれを黙って…聞いていた。 「。」 一つの石碑の前に立って声をかけた。 彼女と二人で来たこの桜の木の他に立てる場所も思い浮かばず、 結局あの日、彼女は此処に埋葬したのだった。 大きな桜の木の下に立てられたせいか、それには落ち葉やら花弁やらが沢山かかっていた。 「……ある意味…約束は守られてるのかもな……うん。」 ここにオイラとお前と二人きり、その約束は、破られていないのだから。 彼女と想いが通じ合った二年前。 その時彼女はここに立ち、今日のように桜の舞い散るその花弁の下で笑っていた。 一瞬の美、普段言っているその言葉が妙に頭の中で連呼されていた。 オイラは石碑の前に暫く屈み込んでいたが、立ち上がると静かに手を合わせた。 そして暫く桜の舞い散る様子を見ていると、おもむろに一本の枝をへし折った。 静かに、それを石碑の前に横たわらせる。 「美しいものは一瞬、だ。……うん」 ・・・お前もこの桜と同じだったな。 「お前は誰よりも綺麗だったぜ…うん。」 実際本人にそんなことを言ったら、きっと真っ赤になって反抗してくるのだろう。 そんな想像をするだけ、虚しいが。 不意にふわりと感じた春の香りが、より一層の思い出を色濃くする。 あの頃オイラは、お前と一緒にいられればそれでいいと思っていた。 隣にお前の香りを感じていられれば、それで。 だから、何度でも何度でも…お前に会いたくなったら、此処へ来ることにするよ。 キミの残り香を、探して。 +++++ あとがき 悲しいぃ……この話を書くときほど悲しいことはなかったです。 多分今迄書いて来た中で一番書いてる最中悲しかった作品。 一応繋がっている話なだけに、ハピエンのままで終わらせたい気持ちもありました。 だから信じたくない人は別物として考えてもらって良いです。 …うう…でもシリアス好き…。(待 よくよく考えてみれば、ナルトでは初の死夢でした…。 *輝月 |