は今日家から出るのが少し苦であった。















































ポケットに沢山のを込めて














































今日は任務は休みで強制的に家を出る必要は無いのだけど。

たった一つ、今日は、今日だけは行かなければならなかった。

ちょっと膨らんだ自分のスラックスのポケットを見て
僅かに顔が赤くなってしまう。
毎年、ちょっとワケあって結局渡せず。

今日を逃したら次は無いんだから。






















あたしは家を出ると、誰ともすれ違わないことを…
特に、年下の後輩達にだけは…願って、歩き出した。
しかし、やはり図られていると言うか何と言うか。
丁度よすぎるタイミングで彼女等は出てくるのである。
熱いのに、そんなに集団でよく来るものだと思った。


さん!あの…毎年、すみません!
 これ、ファンクラブからって、お願いします!」


大き目の紙袋をずいっと渡される。
これで受け取らないわけにも行かなくなるだろう。

第一、あたしが断る権利は無いんだから…

仕方なく、ちょっと重いのを我慢して、

「はい、わかったよ」

と言って紙袋を受け取ると、彼女等は嬉しそうに有り難う御座います、と
言い終えるなりきゃあきゃあ騒ぎながら今来た道を戻っていった。

「ファンクラブねー…どうしてそんなものができるんだか。」

今日は何の日かと聞かれれば、彼女等にとってそんなことは
赤子の手をひねるより容易く答案出来るものだろう。

そう、あたしがある物をわたせないわけと言うのは、
このファンクラブの女の子達の荷物を届けるためである。
煩そうにプレゼントをみる彼に、どうしても自分のものを、
一番大事な本題を、渡せずに居るのだった。

初夏の日差しを体いっぱいに浴びながら、
あたしは「目的地」へと足を進める。
今のファンクラブの神的存在とも言えるその人が居る場所へ。










広めの和風造りな家。
彼は宗家から譲り受けた一軒を借りて今は独り暮らしをしている。
寂しくないの、って聞いてみたこともあるけど
そんなこと言っていたら何も出来ないって否定された。

まるで、自分と同い年の男の子には見えなかった。
三つくらい歳が上だと思うほど、彼はとても大人びていた。


「それにしても…ネジの人気も半端ないね」


一人でぼそりと呟いてみて、何だかあきれた。
大きくため息をついてみたらもっと気がうせてきた。






そう、人気者の彼と言うのはネジ。



そして今日は、誕生日なのだ。






あたしは一生、こんな役回りかな。


ネジと仲が良くて、同じ班であるテンテンだけを除けば
はネジと最も長い間一緒に居た。
後輩の女の子達も、そんな事はとっくに知っていて、
ただ、どうすれば確実に自分達の届け物が彼の手に渡るか
其れしか考えていないものだから。

損、だよなぁ…

まさに、アネゴ状態である。













ピンポーン


もう何度となくならしてきたそのチャイムさえも、
今日は何だか違う音としてあたしの心の中に響いていた。


…やだ…あたしってば、何緊張してんの…。


自分で自分に喝を入れた。

…遅い…。

数分が経過しているのにネジはでてこなかった。
ということは…。

あたしは庭に回った。
案の定ネジはそこにいて。
ただいつもと違うように見えたのは、
――きっと今日はネジの誕生日だからだ。

「ネージ!」

中庭に、一人無防備に寝転んでいた。
身動きもしない。

…寝てる。

あたしは勝手に悪いとは思いながら、ネジん家の庭に入り込んだ。
縁側で寝ているネジは、どこかいつもより幼く見えた。
隣に腰を下ろして、髪の毛をすいてみる。
真っ黒で、さらさらで
そこらの女の子よりもずっといい質の髪の毛をしていた。

ネジの体が、ピクりと動く。

「……誰だ…。?か…?」

まだ眠そうな目をこすりながら起き上がったネジの手には
分厚い本がしっかりと握られていた。
読書中に寝たみたいだった。


、何のようだ。」
「んと、毎年のことなんだけど…」
「いらんと言っていたと言って返してくれないか…」

あたしの手に持たれた紙袋を目にするなり、
今日が何の日であるのかをようやく思い出したらしい。

「え?そんなこといって…そんなことできないって」
「プレゼントなど、一つあれば十分だ。」


って…それは、この袋の中から一番ほしいのを一つ選ぶって事?

今まで一応はこういったものを妥協してはいるものの
結局何一つ使用した形跡はなかったのに。
ネジがこんなことを口にしたのは初めてだった。


「へ…ぇ…。そうなの、だったら早く一個選んじゃえば?」
「そうだな…そうするか。」




正直、今のはカナリショックだったと思う。

今年こそは、強引にでも渡して帰ろうと決心していた所、


『プレゼントなど、一つあれば十分だ』


この中から一つ選んだら、後はいらない。
もちろんあたしのポケットに入っている
未だに一度もあげられていないそれをネジに渡すなんて
到底あたしの勇気では出来ないことだった。



「これを、もらうか。」



突然、自分の方にのびてきた手。
一瞬何のことか分からずに唖然としていると、
いつの間にかスラックスのポケットからそれはなくなっていた。


「ちょ、ネジ、ってことは最初から…」
「ちょっとばかり、能力を利用して、な。」


とにかく恥ずかしかった。
きっと今のあたしの顔、真っ赤なんだろうなー…。
けど冷やすものもないし、とにかく今は外も中も全てが暑い。

温度は、下がらない。


「…いつもプレゼント、受け取ってやらなくてすまない。」
「……え?」
「だからその…いつも、見えていたんだ。
 お前が持ってきているのを見ると、恥ずかしくて…って
 オレ何言ってんだ…。」


一人で自問しているネジが可愛くてやっぱり同い年だなって思う。
こんなネジの素性を知っているのはあたしだけなんじゃないかな。
きっとあのファンクラブの子達も知らない。
ううん、きっと、じゃなくて絶対に。

あたしだけが知っているネジの素顔。


「ありがとう」


その一言が、きっと聞きたくて。
あたしはこの何年間もずっと隠してきた思いが
今伝わる様な気がして。


「おめでとう」

ってただ言いたかっただけなのにずっといえなくて
ずっとずっと、タイミングを逃してた。

でも、ネジはずっと見ていてくれたんだね。
あたしの気付かない所で。



























「ネジ、それ…」
「あぁ、これか」

ネジの家に行っていたあたしは、またいつぞやのように
縁側に二人して座っていた所だった。

「風鈴、いい音だね。」
の選んだのが良かったみたいだな」

一つは、ネジの家に元から付いていた風鈴。
もう一つは、あたしが誕生日プレゼントにあげた風鈴。

仲良く二つ並んで風になびいている姿は、
まるで今のあたしたち見たいだった。






















































+++++
あとがき
ネジ誕生日夢。
幸せな感じにしたかったんです。
私はシリアス専なのであまり幸せムードのものがかけません(ぇ
精一杯の祝福の気持ちを込めて。
好きキャラネジの誕生日祝い夢と致します(。・U・。 )

*輝月