これからもずっと、毎年忘れることの無いように。 さ く ら の か お り 「デーイーダーラー」 「何だい…うん?」 「外行こうよ、外。」 ふと窓から外を見れば、確かにそこは快晴で雲ひとつ無く、 春の陽気と温かい風があって気持ちよさそうだ。 「よさそうだけどな…生憎オイラは今粘土で芸術を……」 「この……インドア根暗粘土……」 「お前日に日に口悪くなってくな…。うん」 「誰かさんのせいでね。」 「ちょっとまてよ、オイラはそんな話し方した覚えはねーぞ?うん。」 「誰がデイだって言ったのよ。」 は後ろにいるサソリのほうをちらと見遣る。…確かに旦那は口悪ィからな…。 でも旦那からならともかく、からそんなことを言われると結構傷つく。 それに口の悪さが移るほど一緒にいたのか?…こいつら。 知らずのうちに、小さな嫉妬心が生まれる。 「いいもーん。もう旦那と行くもん。」 「オイ、オレは行くなんて一言も」 「じゃーねデイ…じゃなかった、インドア根暗粘土!」 「わ、わかったよ!うん!行けば良いんだろ!行けば!」 慌てて立ち上がったオイラに満足そうな笑みを向けると、 しょうがないなぁと言ってこっちに歩いてきた。 「…ごめんね旦那。旦那と一緒に散歩行けないのはコイツのせいだから。」 「(…ハァ…。)…さっさと行って来い。」 出て行く直前、旦那がオイラを引き止めた。 「お前なァ…早いところさっさとに言ったらどうなんだ。 つき合わされるこっちの身にもなれ。」 「何、旦那…応援してくれてんの?嫉妬してんの?うん?」 「バッ…どっちもちげーよ!」 くるりと踵を返すとその姿を自室に消した旦那を見送ってから、外に出た。 旦那がいつもかげながら応援してくれてることくらいわかってる。 …旦那は優しいからな。 「ありがと、旦那。」 でも、今以下の関係にはなりたくないんだよ。 こんなことをオイラが言うのもなんだけど、勇気が…でねーんだ。 「あったかーい!…っていうかデイの鳥って便利だねー。」 「今更知ったのかい?…うん。オイラの芸術は何時だって最高だぜ」 「そういう自信過剰なところがなければもっといいのにな…。」 ボソりと呟いたの言葉を軽く無視し、歩き出す。 オイラ達は粘土の鳥に乗って近間の花畑まで来ていた。 …ここら辺一体はいつも無人だ。オイラ達の取って置きの場所なんだ。 「あー!あの桜満開だー!」 不意にが見つけた桜の大木。それは一杯に桃色の花をつけている。 は駆け寄って、その花弁を一枚取ると、プーと吹いた。 「桜笛か…見てるほうが面白いな、これ…うん」 「…何言ってんのよ。そうだ、デイもやりなよ。コレ結構面白いんだから。」 「何処がだ…」 「あ」 が短く声を上げた。その視線は桜の幹にそそがれている。 何だかオイラも嫌なことを思い出したような気がする…。 「これ、書いたの…デイ?」 ぎく。 「……デイしかいないよね?」 ぎくぎく。 「ななな何の話だい?うん?」 「なに挙動不審になってんのよ…」 の眼が怪訝さを増す。 がオイラに指差したその場所には、オイラととの相合傘が書かれていた。 それはオイラが一番初めに此処を見つけた時のもので、 桜の幹がゴツゴツしていたから上手くほれなくて、少し大きめになってしまったのだ。 ……よく考えれば見つかって当然だ。 「…確かにずっと昔オイラが彫ったモンだが……嫌だったか?」 最後の言葉に、が少し瞳を見開く。 ……言っちまった…。ヤバいな、うん。 「……デイがコレを書いたのは…」 「とずっと一緒にいたいからだぜ…うん。」 「………」 益々見開かれた眼、失われた言葉。 それらが段々とオイラを不安にさせていく。 だから、気持ちを伝えるのなんて嫌だったんだ。 旦那には悪いけど今日こんなことを言う予定じゃなかった。 がオイラのことを好きだなんて思っちゃいない。 ……寧ろ旦那ばかり贔屓する彼女は本当に旦那のことが好きなんじゃないかとすら思う。 「…デイは…あたしのこと……ずっと昔から……?」 漸く彼女の口から紡がれた言葉は疑問系。 無理も無い、普段のやり取りがアレだったのだから気付かなくて当然だ。 「…じゃあ此処に連れてきてくれるのは…」 「お前のためだけに連れてきてんだよ……うん」 吹き抜ける生ぬるい風に、桜の香りとの髪の毛の香りがそっと混ざって至極良い匂いがする。 そんな香りに少し眼を細めて、彼女を見た。 「はオイラのこと何てなんとも思っちゃいないだろうけど…オイラはお前が…。」 そっと、手を伸ばして抱き寄せて。 普段の彼女なら直突き飛ばしそうなものだが、彼女はそうはしなかった。 珍しくも大人しく腕の中に納まっているを愛しいと思う。 そう、これが、素直な気持ちだから。 「が好きなんだよ。」 どうか、届いて…… 「インドア根暗粘土……」 「…は?」 彼女は腕の中でそっと呟いた。何を言うかと思ったらあのセリフ。 はオイラの胸に手を置くと少し体を離してオイラを見上げる。 「ほんっとに…バカじゃないの?アンタ。」 それはいつもと変わらない彼女の口調と、眼差し。 「……ば…ば?」 「ばか。ホントにホントにアンタってやつは……」 「ドンカン。」 不意に視線を下に落とすと、握った拳でオイラの体をトン、と叩いた。 下を向いたの顔が赤くなっているのに気付く。 「ドン…ってことは……」 「………。」 「オイラのことす「あああああッ!」 オイラの言葉を無理矢理消そうとする。 「でもさ、。」 「……ん?」 「だってオイラが好きだったことに気付いてなかったんだろ? ……お前だって人のこと言えないんじゃないかと思うけどな…うん」 「それはあんたのアピールが分かりにくいのよ!気付かなくて当然!」 フン、と顔を背けた彼女だったが、何かを見つけて視線が止まる。 どうしたのかとその先を追えば、桜の花弁がもう散り始めていた。 はそっとオイラから身を話すと、その中に静かにたたずんだ。 「……芸術は一瞬の美のことを言うんだっけ…?」 後ろにいるオイラに向って、振り向きはせずに彼女は問うた。 「ああ…オイラの考えではな……うん。」 「儚いって悲しいから嫌いだけど…こうして見ると意外と綺麗かも。」 「やっとわかったか…うん。」 「でもさ。」 彼女が、桜の舞い散る中で、振り返る。 「あたしたちはずっと、このままだよね?」 笑った顔と、逆光と、散る花弁。全てが折り重なって、 「…クク…そうだな…。」 まるで彼女が妖精のように見えて。 「……芸術的だな…うん。」 「…?何がー?」 首を傾げるが可愛くて、愛しくて…思わず抱きしめた。 抵抗することもしない彼女の髪に、顔を埋める。 「…は春の匂いがするな。」 「…は?それはここにいるからでしょ。」 「オイラはこの匂い…好きだな。うん」 「じゃあ…」 が、オイラの背中にぎゅっとしがみついた。 「また来年も、再来年も、そのまたずーっと先も……ここにお花見に来ようよ。」 「良い案だなそれ…うん。それもオイラ達二人だけで来ようぜ。」 「あはは…うん。そうしよう。」 の小指とオイラの小指を絡ませて、指きりする。 無言でも伝わる。その指きりの本当の意味が。 だから絶対、来年もこの場所へ。生きてこの場所へ来る。 「絶対、約束だ。うん。」 キミの隣にいたいんだ。 ただ、キミの香りを傍に感じていられれば、それでいいから。 +++++ あとがき 花見に行った後の産物です。花見ったって、 うちの近所の城址公園を通りかかっただけ、ですけども。(花見じゃねぇよ そしたら舞い降りてきた夢。(助かるー デイとの甘夢は書きやすい……。ですが、この後のシリアスな続編も考えています。 (別に続編と考えなくても読めるものになると思いますが。) *輝月 |