チュンチュン可愛い小鳥の鳴き声が聞こえてくる。

朝日の光がいっぱいにカーテンから差し込んで、

思わずまぶしさに目を細めながら体を起こす。

朝食の匂いがわずかだけど部屋まで運ばれてくる。


そう、いつもと変わらない朝だった。


変わらない朝の……筈だった。























































せ っ て 何 だ っ け  −01
               
一番に想うもののために出来ることがあるのなら
























































ここは、とある一国の王宮。


あまり裕福ではない国で、もちろん皇族だってそんなに贅沢な暮らしはできない。

今はギリギリ財政を保っている状態でいつ崩れるかわからない。

ただ、それさえのぞけば平穏な国で、そして王宮にはたいそう美しいお姫様がいるとか。


そのお姫様の名前は、


色々な国の王子から結婚の申し込みをうけたことのあるほどの外見、

綺麗、というよりは可愛いといったほうがいいだろうか。

(結婚の申し込みは年が若いからと断り続けてきたのだが)

そして何より、外見だけでなくそれに性格が伴っているということだ。

ただ、おしとやかという言葉があまり似合わない。

お姫様のくせに活発な性格でたまに王宮の者たちを困らせていた。









「おはようございます、父様。」

か。ようやくおきたかの。」



朝食の席に着くと、何処となく緊張した雰囲気が漂っていることに気づいた。

の斜め前に座っている国王、ゼノはさっきからずっと眉をしかめている。

(また怒られるのかとはビクビクしていた。)



「父様……どうかしたの?」

「実はな。」

「実は……?」



ゼノは一呼吸おくと、



「お前、隣にある同盟国の王子クラピカを知っておるか?」

「はい。」

「そのクラピカ王子がお前と婚約したいといってきてな。」

「はぁ…。」




ちょっとまって。



「は……はぁ!?」



その一言は、眠いあたしの頭に一発パンチを入れられたような感じがした。

睡魔と闘っていたさっきまでのあたしの頭が急に活発に動き始める。



「な、なんですかその話は!」

「お前が驚くのも無理はないな。」



だってクラピカ王子って言ったら…

あたしと五歳も年が違うじゃない!!



「まぁお前の年を考えてすぐ結婚ということはしないそうじゃが、

 後々はお前と一緒になりたいといっておられる。それから……」

「それから?」



また言葉をにごらせた国王には疑いの視線を投げかける。

婚約意外にも、まだあるのか。



「お前と婚約するからには、こちらの財政難についても解決しよう、というのだ。」



言葉を失った。


あたしが彼の婚約者になればこの国を救える。

あたしだってこの国は大好きで、いつだって国のことを考えてた。

……国の皆が大好きだったから。

この婚約が成立すれば、この国は一気に豊かな国になるだろう。


「だけど…そんなのって……」

。」


ゼノに一言厳しく声をかけられた。

何を言われるかなんて、わかってる。



「お前は、もう子供じゃない。結婚だって少しは考えなきゃいかん。

 ……わしもお前に無理な婚約はなるべくさせたくない。

 じゃがの、人としてみてもクラピカ王子は裏表の無いとても良い人じゃ。

 それに国も助かるというんじゃ、是非お前もわかってほしい。」



わかりたくも、無い。

父様には秘密だけど、今までの婚約だって何の理由もなしに断ってきたわけじゃない。



「ご馳走様。」



殆ど手をつけていない朝食を残して、あたしは席を立った。



、お前は…」

「婚約の件考えておきます。」

「……夕刻に、クラピカ王子がおいでになる。食事を御一緒しようという話じゃ。」

「………」

「出かけるのはかまわんが、それまでには戻ってくるように。」



振り向かないまま、食堂を後にしてすぐさま自分の部屋に入る。

タンスの奥底を手探りする。

……内緒で手に入れたこの国の民族衣装だった。

これをきて、髪を結って、帽子を深くかぶれば一国民に早代わりだ。



「もう……言うことが唐突すぎて考えられもしないわよ。」



こっそりそれを身にまとって、自室の窓から外を眺める。

ぴゅう、と小さく口笛を鳴らす。

そして、あろうことかは窓から飛び降りた。

……その瞬間に、一陣の風のようなものが吹き抜けて、の体をまとった。

白い、そして大きくてしなやかなもの。

はその上に着地していた。



「今日もありがとう。」



それはこの国でしか育たない白い鳥で、に良くなついていた。

(の運動神経があってこそ飛び乗れるのだが)

白い鳥は森を抜けて人気の無い小路までくるとを地面に下ろした。

はすぐそこにある民家のドアをたたいた。



「あ、姫。」

「今は姫って呼ばないでって言ったでしょ、キル。まぁ普段も本当は姫なんて要らないけど。」

「わかったよ。ほら、中入れよ。」



キルとあたしは、まだ本当に小さいうちに出会った。

あたしが外に遊びに行きたいって駄々をこねて、やっと連れて行ってもらった街。

そこにちょうどあたしと同い年くらいの男の子が一人で市場で買い物してた。

当時のあたしには買い物なんてできなくて、一人でしている彼が神様みたいに凄く見えて。

声をかけたのもあたしからだった。



「……どうした?今日はいやにおとなしいじゃねえか。」

「うん、そうかな?」

「……どうせまたどこかの国の王子から結婚でも申し込まれたんだろ?」





何でわかるの?

あたし、そんなに顔に出てる?

……今までは「あはは、うん、そうだよ。」って笑っていられた。

でも今は違う。

国のことが絡んでいる。それも、財政難を解決するという、とても大きな関わりが。



あたしが今まで婚約を受けなかった理由は、キルにある。

小さい頃顔見知った初めての男の子、変わった銀紙の髪の毛に鋭い猫目。

少なくともあたしは一目惚れしていた。

……キルの家はキルが小さい頃に両親が死んで、誰も引き取ってくれる人もいなかった。

(寧ろキルは自分から孤独を選んで一人で暮らしていたとも思える。)

どんなことにも一人で取り組まなきゃいけなかった。




一生懸命な彼の姿に心打たれない女子はいないんじゃないかと思うくらい、

その瞳は時にとても透き通って輝いてた。




今度の婚約を承諾すれば、キルは少なくとも今よりずっと楽な暮らしができる。

今までたまにしか見れなかった笑顔も、きっともっといっぱい見れる。






…あたしがキルを好きな気持ちさえ我慢すれば、すべてうまくいくのに。







キルは、別にあたしのこと幼馴染としか思っていないのだから。








でも、どうしても婚約の話が出てくるとキルを切って考えることはできなかった。







「別に、今回はそんなことじゃないよ。」







あたしがもし気持ちを伝えたりしたら、彼に凄く迷惑かけちゃうのもわかってる。

だから、秘密にするの。





「ま、これでも飲んで元気出せって。」


不意に目の前に暖かそうなスープが出された。

キルお得意の、野菜スープだった。



「……ありがとう。」



遠慮気味にとると、ほんとおとなしすぎて気味悪いぜ。といわれた。



「何か風邪でもひいたのかなー、今日はキルにうつさないためにかえろっかな!」



綺麗に、笑えてるかな。

キルには、あたしのことなんか気にしないで仕事がんばってほしいし。



「…もう帰るのか。てかお前ほんと、帰りとか事故にあうなよ?

 そんなフラフラで…だれかに連れ去られても知らないぜ?」

「大丈夫だもん!あたしは仮にもこの国の王妃だからね。」

「余計危ないじゃん。そこまででも送ってく。」



自分から来たくせに、キルにスープご馳走になって、それとなく心配かけて、

こんなのとんだ自分勝手な行為だ。



「大丈夫だって。それに父様もキルとのこと知ったら怒っちゃうし。

 ほら、口笛吹けば鳥も来てくれるし、ね?」



キルはそれ以上何も言わなかった。それがどうしてかあたしにはわからなかったけど。

あたしもそれ以上何もいうことができなくなった。



「それじゃ、ばいばい。」

「あぁ、また来いよな。」



どうしてか、キルにはいつもの元気も見られなかったような気がした。

ひどく心配だった。

けど、バカなあたしはかける言葉さえ見つけられなかった。



……こんなにも、優しくされておきながら。



白い鳥に乗って、また城に戻る。

夕刻までは、もう少し時間があったけどクラピカ王子が来ることを思い出して早く帰ることにした。




「……あたしは、結婚するのかな。」




まだ。実感がわかない。

まだ12歳だし、結婚って普通18さいとか20さいとかでするものだし…。

婚約だって、12歳で婚約するなんて普通じゃな事くらいあたしでもわかる。

でもそれ以上に、あたしの立場だって普通じゃないことも十分承知。




「国のため…に。」




見下ろした街の風景はとても静かで、ただ市場の辺りだけが少しざわついていた。

あんなに高かった日はもう傾いている。

…隣国の一行が来るのももうすぐだということを示していた。

どうもすることはできないのに、何かすることがあるような気がして落ち着かなかった。

一人で部屋の中を右往左往して、バカみたいな自分に一喝して。



…こういうのを、そわそわするというんだ、きっと。



「クラピカ殿他御一行様が御到着なされました。」



部屋をノックする音、そしてそれに答えたの声と同時に入ってきた執事が、

にそう告げた。



うわ、どうしよう緊張するし……

とりあえず、おしとやかに、お上品に振舞ってたほうがいいんだろうか?(それはそうだろう。)

ドレスのすそを少し持ち上げて、階段を下りる。

既にそこには父様がたっていて、周りを何十人もの執事、人々が並んでいる。

あたしが降りる階段がいっせいに注目された。

ちょっと……そんなに見られると恥ずかしいって。



「今晩は、姫。貴方に会えることを楽しみにしていました。」



やわらかい物腰。綺麗な金髪に、まっすぐな瞳。

わずかに光る、両耳に輝くイヤリングや、しなやかな手先。

…すべてが、輝いていた。

圧倒されていたことに気づいて、あわてて返事をする。

すそを持ち上げて、会釈。



「こちらこそ、お待ちしておりました。今宵が楽しい時間になりますように……」



色素のうすい茶色の髪の毛、ロングで毛先はロールしている。

すらっと背が高く、とても12歳とは思えない。

……そして何より本人に自覚が無いのだから驚きだ。






クラピカが一瞬だが、わずかに頬を染め、

そして周りの人々がに視線を集中させる。

には、神的なほどのセンスが備わっているのだ。








……また一段と、女らしくなった。」



ゼノがそう、つぶやいた。

































































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あとがき

王国パロスタート!
てかglass heartsはどうしたって感じですよね…。
これからもう少し続く予定なのでお付き合いください。


*輝月