これも一つの愛し方だと

そう自分に思い込ませれば

本当のような気がしてくるだろう













































せ っ て 何 だ っ け  −10
              
 一番に想うもののために出来ることがあるのなら

















































「っしょ。」


荷物を詰め終わり、立ち上がって部屋を見渡す。

と言っても、元から物の少ないこの部屋では荷造りにもそう時間はかからなかった。


ふと、ボロボロになったソファに目が行く。


を突き放して、酷いことを言って傷つけたあの日から、何故かこのソファには近付かなかった。



此処に座ったら、またあの時のことを思い出してしまう。

そうでなくても四六時中、考えてしまっているのに。



「………。」



一時は引越し先にも持っていこうとした。

だけど、折角向こうの国に行ってから離れるのに、これがあっては忘れたくても忘れられない。


「しょうがない……か。」


結局、国から渡された金で新しいものを買うことにしたのだった。



他の家具は既に全て片付いている。

荷物をつめた大きめの鞄を背負うと、長年暮らしていた家を出た。






ぽつりと、只一つ残されたソファは何処となく寂しそうだった。










「や。」


引越しに使う荷馬車の前には何故か、相変わらず淡々とした口調のイルミがいた。

彼はキルアが家から出てきたのに気付くと右手をスッと上げた。

キルアはあからさまに嫌そうな顔をしてイルミを見る。



「……何しにきたんだよ。見張りなら、しなくても見ての通り言うこと聞いてやってるぜ。」

「見張りじゃない。ただ少し話したいことがあってね。」

「……?」

「とりあえず荷馬車の運転はオレが変わりにやるから、向こうに着くまでに話す。」



さっさと運転席に座り込むと、キルアを手招きする。


「オレも時間無いから、早いところ終わらせたいんだけど。」

「何の話。そんなに時間かかんのかよ」

「まぁ…大事な話かどうかはお前の感じ方次第だけどね。ほら、早く乗った」



少し眉間に皺を寄せたキルアは嫌々ながらも仕方なく乗った。

イルミは慣れた手つきで馬を発足させると、出来るだけゆっくりとしたスピードで走らせた。



「お前には話すことが多すぎてね。何から手をつけていいのか分からないけど…」


イルミは少し考えると、軽く頷いて話し始めた。



「まずは、姫のことからかな。」

「……!」

「あの子、記憶喪失になったって知ってた?……あ、知ってるわけも無いか。

 それも、お前の家に行った直後、その日の記憶だけが一切なくなっていた。

 本人は一日中寝ていたと思い込んでいるようだけど、本当はお前の家で何かあったんじゃないのか」


「(記憶喪失…?)……いや、別に。」


あくまで口を閉ざそうとするキルアに、イルミは言う。


「…本当のこと話せよ。心配しなくてもオレは王に告げ口したりしない。」

「信用できないね。」

「それも無理ないかもしれないけど…あの時と今とではまた色々状況も違うから」




イルミの声に、僅かに暗い響きが混じったのがキルアにも分かった。

キルアでも読み取れたということは、恐らくイルミにとっては相当だ。




「勘違いしないように言っておくけど……オレはのことを一番に考えてる。

 お前やクラピカ王子と違って恋愛感情を持ったことは無いけど……大事な人の一人としては、見ている。
 
 これでも小さい頃から知ってるから。……だからこそ本当のことを教えてあげたい。

 偽りの世界で生きていくことのほうが彼女にとって心地よかったとしても、

 後から知ったとき、余計に苦しむことになるのは自身。場合によっては人間不信になるかもしれないし。」




確かに、城で会った時とはイルミの様子は随分変わっていた。

表情を隠そうともせず、への思いを自分に打ち明けている。

自分がのことを好きだという前提が置かれていることに突っ込む余裕すら無いほどに驚いた。




「此処まで言っても、まだ信頼できないか」

「……。あーッ!分かった。分かったよ、全部話す。」





イルミの目は嘘をつくことなくイルミのへの思いを語っていた。

もし仮に今のイルミの言葉が嘘だったとして、それでももういい。

あれが本音で無いとすれば何が本音だと言うんだ。




キルアは暫く黙った後、ポツりポツりと語り始めた。

今迄誰にも話したことが無くて、自分の中に仕舞い込もうとして失敗し、幾度となく戦ってきたあの日のことを。










「……へぇ」


全てを話し終わった後、イルミはふぅと息を漏らした。


「なるほど。関係してないはずは無いと思ってたけど、まさかこれほどまでとはね」

「……記憶をなくしたから姫は…はクラピカ王子の婚約を受けたってことか」

「…恐らくはね。今の話を聞く限り、君を除いた人々の中で彼女の中の一番大きい存在だったんだろう。」



何だか不思議な気分だった。この間まで尋問されていた相手が、こんなにも打ち解けて話している。

油断はならない雰囲気が漂う男だが、何だか他人とは思えない。

相性が合うとも思えないが。




「それじゃ次の話。キルア、お前はのこと好きなの?」

「……それは何処にも関係ない話だろ」

「ある。がお前を一番に思ってる以上、あり過ぎ。」


まるで過保護な親を見ているようだ。それが彼の性分なのかは知らないが……。



「……オレは、さっき言った通り。恋愛感情としてではないけど、好き。」


等価交換。イルミは事も無げにそう言うと、キルアの返答を待った。



「オレは……正直、好きだ。」



顔がカッと熱くなるのが分かる。もしかしたら赤いかもしれない。

好きだなんて、口に出していったのは今が初めてだった。



「…やっぱり。まぁ想定内。寧ろ案の定って感じかな」

「……分かってるんなら聞くなよ」

「そういうわけにも行かないだろ。思い込みとか、今はあってほしくないから確認しないと。

 ……お前はいつから好きだった?」


「まだ聞くのかよ……。会ったときからだよ。一目惚れって奴かも知れない。」

可愛いからね」

「し…知るかよ。」




相変わらず淡々とした口調で返してくる。段々ペースにのまれているのが分かる。

悔しいが、反抗する術は見つからない。




「なるほど。おかげで色々知れたよ。」

「……そりゃあ良かったな。」






やがて荷馬車は目的地に着いた。

家はそんなに広くなかったが、確実に前よりは住みやすかった。

イルミに手伝ってもらって家具を並べると、もとはソファがあったスペースがやはりがらんとしていた。



「…聞いていいか?」

「聞く分には、いくらでもどうぞ。」

「……お前、城の中でも重要な人物なんだろ。が記憶をなくした事だって、そうじゃなきゃ知らないもんな。

 それなのに……こんなところで時間くってていいのかよ。」



荷馬車の中から顔をのぞかせていたイルミは少し空を眺めると、キルアの方を向いた。





「だから、時間無いって言ったろ。それに……」

「それに…?」

「弟の引越しくらい、手伝いたいからね。」





「…は……!?」





















弟だと?何言ってるんだ、こいつ。

オレの家族は、オレが小さい頃に他界……したはずじゃ……。




                           
「言い忘れてたけど、オレの名前はイルミ=ゾルディック。【キル】、お前と同じだ。」

「嘘…だろ…!?」

「オレだってこの前お前の名前を聞いたときに初めて気付いた。

 確かにオレ達の両親は他界したけど、オレはお前が本当に小さい頃に家を出て国の裏働きになったから

 ……知らないのも無理ないけど。」




信じられない。兄弟ってもっと歳が近いもんだと思ってたし、性格も似てない。

見た目も全く違うから、気付いたほうが異常だ。







「キル、オレの弟として一つ言っておきたい。」

「……な、何だよ。」




「大事なものを守りたければ、敵は壊すしかない。」




「……!?」

「オレも、を守るために世界中を飛び回って敵と言う敵と戦ってきた。

 お前にも出来ることくらいあるだろ。指をくわえてみてるって言うんならもう何も言わないけど。」







軽く手を振ると、イルミは馬に鞭打って帰っていった。







「………」

キルアは自分の両手を見た。













何かがあったときは必ず自分が身を引く覚悟をしていた


それは、彼女が皇族だと知った上で、彼女を好きになったその時から決めていたことだ。


彼女に余計な心配をかけたくないから


彼女に余計な悩みを増やしてほしくないから


身を引くことで、全てが解決すると思っていた。




否、それも一つの想い方だと、自分に言い聞かせて勝手に正当化していただけだ。




今だって、そう。




王に言われたから身を引くのではなく、自分が逃げようとしていただけ。


現実を直視しなければ、が心の中ではまだ


自分のことを密かに想ってくれているんじゃないかって思えた。









違う。だめだ。それじゃだめだ。











彼女が自分のことを覚えてすらいない今、それでも身を引いていられるのか?


……彼女の中から自分の【存在】は消えてしまったのに。










『大事なものを守りたければ、敵は壊すしかない。』










それでが傷つくことになっても?



自分がの目の前に現れたところでが受け入れてくれる確証はあるのか?



そもそも自分を思い出してくれる可能性は?
















「……つくづく臆病者だ。」
















可能性の分からない幸せに賭けてみるか








可能性の変わらない今をこのまま過ごすのか





































































++*++

あとがき

キルアさん揺れてます……。

姫早くキルアのこと思い出したげてー!(ぇ)

さてさて、久々のキルアサイドでしたが…案の定イルミとの絡みでした。

というか結局パロでも兄弟設定でした。(笑)

ゼノは……まぁ深く考えずに読んでやってください。



5/1…分かる人には分かる部分、修正しました。





*輝月