会ったのは初めてだったけどいやな感じはしなかった。

寧ろ第一印象いい人、って感じでとても好感が持てた。

……もしもこれから結婚を申し込まれても断る理由が見つからない。

もしあるとすれば…ひとつだけだった。
























































せ っ て 何 だ っ け  −02
               一番に想うもののために出来ることがあるのなら




















































「お食事の支度は出来ております。どうぞこちらへ。」



堅苦しい言葉遣いはあまり好かなかった。

それだけ相手を遠ざけている気がした。

でも、あたしは仮にも一国の王女だもん、それ以外は許されない。

本当なら堅苦しい世界から逃げ出して一国民になりたいと

他の人に言ったら馬鹿にされる様なことをいつも考えてた。



「有難うございます。今日は無理に食事などを……」

「いいえ、そんなことありません。私も一度お会いしたかったのです。」

「……噂に聞いた通り…とてもお綺麗な方ですね。」



今迄もキザな台詞とか、女を落とすような言葉をいっぱい言われたけど、

この人が言うとどれも素敵な言葉へと変化してしまう。




食事中は親同士が話を着々と進めている様子が良く分かった。

たまにあたしや王子も談笑するけど、あたしは会話内容が殆ど頭に入っていなかった。


あたしには拒む権利なんて無い。

決めるのは、すべて父様。柄にも無くにこにこして…気味が悪い。

でも、国を保つためにはそれが一番利口なことなのだと。

だけどあたしは……



「…?姫…?姫?」



王子に三度呼ばれてようやく気がついた。

そしたらあたしがボーっとしてて会話をまったく聞いてなくて

笑うところでも笑わずに黙々と料理を食べていたらしい。



「あ、申し訳ありません…失礼しました。少し考え事を……」

「……その中に…」

「はい?」

「その中に私は出てきているのでしょうか。」

「…どういう意味です?」

「いえ、何でもありません。こんなときにまで考えてしまう人でもいるのかと不安になりました。」



そういってはにかむ様子が王子とは思えなくてとても素敵だった。



「そうやって思い切り笑っていらっしゃるほうが、素敵ですよ。

 ……心まであったかくなります。」



お世辞なんかじゃない。心の中からの正直な本音だった。

堅苦しいイメージが一気に全て吹っ飛んでしまったような気さえした。

…でも、図星をつかれて素直に笑えない自分がいやだった。どこまでも。



「貴方にそう言っていただけて嬉しい限りです。」



クラピカ王子はまた少し赤くなった。満面の笑みを見ていると幸せな気分だった。

それを見た隣の父様がトン、と肘であたしをつつく。



『なんだか盛り上がってるのう。』



それに少し笑みを含んだ口元。あたしはそれをみて少しだけ頷いた。

……あたしと王子が楽しそうに話していたのを見ていたのだろう。

そりゃ、あたしと王子がうまく行けば父様としては一番な訳だし……




じゃあもしあたしが、この婚約を絶対いやだって…いつもの様に拒絶したら断ってくれる?

……父様は、あたしが「もう少し先に出来ないの?」というと必ず断ってくれた。

今回は?もしあたしがそういったなら断ってくれるだろうか。



父様の横顔からはあたしがNOと言う事なんて想像もつかないだろう。



……こんなことを考えてるあたり、あたしもきっとどうかしてる。




「今日は急に失礼いたしました。実に美味な料理でした。……ひとつお願いしてもよろしいかな?」


隣国の王は父様の顔をチラりとみると、広い城に視線を持っていった。



「この城内を一度案内していただけないかと…」

「そういうことならどうぞ、ご一緒に回りましょう。」



父様と隣国の王はさっさと歩いていってしまった。




…あたしたちを残して。




先に立ち上がっていたクラピカ王子から手が伸びてきた。

指先まで繊細な感じがした。……この人は何処まで素敵なんだろう。



「どうぞ姫、お立ちください。」

「ありがとうございます。」



一瞬ためらった。その手を握るのに。







どうしよう、頭の中がぐらぐらする。





「一緒に城内を回っていただけませんか。」

「はい、喜んで。」





返事はしたけど、頭の中は違うことでいっぱいで。気づかれてしまいそう…。

一瞬であたしの脳内全部占めちゃうんだからつくづく一途だなと自分でも思う。

……でも、目の前にいるクラピカ王子に魅かれているのも確かで。

今迄結婚を申し込んできた人達とは、悪いけど比べ物にならない。

しかも今回の婚約を受け入れたとしたら、国民全員が助かるんだ。




あたしが選ぶべき選択肢は一つのはずだ。














「姫、どうかされましたか?」


王子に顔を覗き込まれて驚いた。

またボーっとしていたに違いない。あわてて顔をもどすと、



「すみません……本当に……普段こんなことは無いのですが…」

「…顔色が悪かったようですが、何か具合でも悪いのですか。」



心配かけてしまってる。

あたしがしっかりしないからだ。こんなときに余計なこと考えて。

いいえ、と直に頭を横に振った。そして少し微笑んだ。


そしたら、そっと手が伸びてきて。



姫、私と腕を組んでいただけませんか。」



眩しいくらいの、笑顔。

体の奥で心臓の音がするのが分かるくらいにドキドキしていた。

震える手をそっと伸ばし、腕に絡み付ける。王子が歩き出すのにあわせて自分も歩く。




「……こうしてみると、本当に隣国の方とは思えませんわ…。」

「私もそう思っていました。」




王子の肩くらいしかないあたしの身長。五歳も差があれ当然だと思う。

でもそれが丁度、あたしが少し見上げる角度、王子が少し見下ろす角度。


丁度良かった。


「…姫。」

「はい?」



組む腕に少し力が入ったような気がした。

名前を呼ばれるだけで、もうドキドキしている。



「初め、貴方と結婚することは父が薦めてきたのです。…凄く美しい方で、私も断る理由が見つからなかった。」



ただ、黙って聞いていた。それだけ真剣に言っていると分かっていたから。



「でも正直に言えば当初は貴方に本気ではなかったのです。でも……

 貴方を初めてみたときからその気持ちは本物の気持ちとなりました。嘘みたいな話でしょう?

 でもこれは本当の話なんです。心から、貴方を愛したいと。ずっと一緒にいたいと思った。」



腕に、一番力がこもったと思う。

怖くて顔を伺うことはできなかったけど、腕から体温が上昇しているのが感じられた。



「だから、私は本気で貴方との婚約について考えています。貴方はまだ幼いから実感がわかないかも知れない。

 それでもこの気持ちだけは知っていてほしかった。貴方も真剣に向き合ってほしかった。

 ……確かに国のことが関わってくれば自分の意見を殺さざるを得ないこともあるかもしれない。

 でも、この時だけは素直になってほしいと思います。」



腕の力が抜けるとともにあたしも王子を見上げることが出来た。

…王子もこっちを見て、丁度視線が合った。



ドキドキするのが隠せない。視線が逸らせない。言葉も出てこない。

笑ってごまかすことすら……出来なかった。



「あ……の」



やっとのことで出た言葉。…本当に、何言ってるんだあたしは。

うまく言葉にならないけど。



「ありがとうございます。…私、婚約って言われてそれから国のことも考えてくれる方で、

 お会いしたらこんなにも良い方で…凄く嬉しかったんです。

 でも、本気で愛しているかといわれたらそれは会ったばかりで良く存じ上げませんし…

 それに、私が意見を出せるものでもありません。ここで婚約反対することは許されませんし…。

 けれど……そこまで貴方が言われるのなら…私も本当の気持ちでなければ向き合えません。

 ですから……返事をさせてください。数日後に。」




そうでなければ、そこまで想ってくれている王子に失礼極まりないから。



















「それでは、今日はこれで。失礼いたします。」



深く頭を下げた王子と王に合わせてあたしも深く頭を下げた。

顔を上げると不意に王子と目が合って、恥ずかしくて視線を逸らした。

…意識しているんだろうか。あたしが、王子のことを。

頭がいっぱいになってしまう。パンクしてしまいそうだ。




「今度は、城下町の方も回ってみたいですな。」

「その折はまたご案内いたしましょう。」




一気に、真っ白になった。

あたしが一番いやなことは、皇族として歩いている自分の姿をキルに見られることだった。

いや、それだけじゃない。町を歩くのならもちろん王子も一緒だ。



……見られたくない。絶対に、見られたくない。



幸いキルの家は路地を入ったところにあるから市場に出ていなければ会わないですむよね…。




だめだあたし、こんなこと考えちゃ…

今は、目の前に居る王子のことを考えていなければならないのに……



姫。またお会いしましょう。」



手を取られて、されるがままに持ち上げられた手に、王子がキスを落としたから

恥ずかしさに赤面して顔の表面が熱くなっていく。

それを見て王子は優しく微笑むと、お辞儀をして王の後を追った。

そこに来ていた馬車に乗り込む。



最後まで、目が離せないで居た。












心の中は二つのものが押し合い圧し合いをしながら窮屈そうに蠢くから、


その痛みがあたしを締め付けた。

























































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あとがき

テスト期間に頑張って更新してます…w
自分でも良く頑張ってるって思うわ… 待


*輝月