分かってるはずだった君のこと。

全部知ってるはずだった君のこと。

何もかも…知らなかったのかな。

それともいままでの君は、全部偽りのものだったの?























































せ っ て 何 だ っ け  −03
               一番に想うもののために出来ることがあるのなら



















































クラピカ王子を選ぶことが一番賢い選択だってことは知っていた。

同時に得られる財産と優しい一途な愛。

どちらもあたしには十分すぎるもので、チョコを食べ過ぎたときみたいにくらくらする。



でも



その酔いを醒ますものがあたしにあったらなら、それを選ぶべきだと考えるのは間違えてるの?







……一体何回この自問を繰り返せばあたしは眠りにつけるのだろう。







彼がいなくなってから就寝まで、そしてベッドにもぐりこんでからもずっと同じ事ばっかり。

いい加減飽きたはずなのに、瞼は一向に重くなる気配が無かった。



仕方なくベッドから抜け出すと、ベランダに出た。

少し冷たい夜風があたしの長い髪をなびかせる。

髪の隙間から首元まで進入してきてヒヤリと冷たいが、気持ちいい。



ここから見える街では、一体どれくらいの人がお金に困っているのだろう。

お金に困る人が多くなれば、当然国の平和は乱れ始める。

長い幸せを保つためには、何より最初にお金が必要なのだということ。

嫌に現実的な思想で、あまり好かないが目を逸らすことはできない。


あたしが……あたしが皆を救えるときなんだ。




国民は皆大好きだ。皆に同じだけの愛を…そそいで……




そこまで考えて、少し頭を抱えた。

本当に、「国民」全員に「同じだけ」……?



そう、国民というならあの人のことも入るんだと今改めて気づいた。






「キル……あたしはどうしたらいいと思う……?」






寝てるだろうか。いや、まだ起きているかも知れない。


どっちにせよ、自室のベランダで呟いた問いかけは、はるかかなたのキルアに届くはずが無い。

……頼るのも大概にしなきゃいけない。これでも一国の王妃なのだから。

でも、あたしはあたし自信が姫であることが嫌で嫌で仕方なかった。

こんなに悩み、苦しむのなら一国民であるほうがずっと気楽だったとさえ思った。




「バカ……今そんなどうしようもないこと想像してどうすんの…」





自分で自分の頬をつねる。痛かったけど、まだぎゅっとつねる。

二度とそんなこと考えちゃいけない。あたしは一国の姫。

皆を救えるのも……あたし。



「………っ。」



つねった頬が痛かったわけじゃない。

それなのに、離したと同時に目頭が突然熱くなった。


じわりと景色がゆがむ。かすんで、その塊は零れ落ちた。

拭くこともせず、ただ流れていく様を黙って感じ取っていた。

ゆっくり、目を閉じて。


一番初めに浮かんでくる人物なんてもう決まっていた。

いつのときも、あたしの頭の中を…一人で占領して……






いるはずだった。






そこに浮かんできたのは一人じゃなかった。

想い人ともう一人、それは王子の姿で。


今日見せられた笑顔。そして躊躇のないまっすぐな目。


どれも、鮮明に思い出せる。……あまりに綺麗過ぎて。



目を閉じた先の風景は、今迄見たことの無いもので。

無心に目を閉じればいつも居たのはキルなのに。




……知らずのうちに、どんどん心惹かれている。

いつの間にか心から離れなくなってて

これを単純に好きになるっていうんだろうか




「もう……あんなこと言われたの初めてだよ……」




今まで、心は反発しながらもやっぱり結果的にはクラピカ王子と結婚するものだと

自分にそれ以外の選択肢なんかあるわけないって言い聞かせて

客観的になってみれば一番妥当な答えだったから。



なのに。



じぶんの決心は



一瞬で崩れ去るようなものだったことに今日はじめて気づいた。















『この時だけは素直になってほしいと思います』













素直に……





それで迷いなくキルを選べるのなら苦労はしなかったんだ。

もう貴方は私の心の中をそれだけ占領しているんですよ。

……あたしはそろそろ気持ちを決めなきゃいけない。



もしそれが貴方なら貴方はどんな笑顔で笑ってくれるんだろう





ああ




王子にどんなことを言われようと、あたしの選択肢はやっぱり一つなのかもしれない。































姫。」


使いの者が部屋まで来て、ようやくクラピカ王子が現れたことがわかった。

今日は城下町を見て生きたいという国王の希望で町へ出ることになっていた。

……当然あたしは王子と歩くのだろうか。



そしてやはりそれをキルに見られるのだろうか。



「父様」

か。ようやく先方がお見えになったようだ。」



父様の視線の先を追って、そこに一行が到着しているのが見えた。

もちろんだがやはり目がいくのは王子だった。

こちらに気づくと、軽く会釈して近寄る。




姫。またお会いできてよかった…今日はご案内願います」

「…はい。城下町で知らないことはありませんから。お任せください!」


笑って言ったあたしにクラピカ王子は微笑した。

終いにはそんな細かな動作までドキドキしてしまう。

気づかれないように首を振って気を取り直す。

……今からこんなんじゃ、一日もたないよ!







簡単に言えば大名行列のようなもの。

其々が馬にのり、兵を引き連れて城下町を訪れる。

町の人々はあっけにとられて口をあけたままのものも居た。

……あたしはクラピカ王子の馬に乗せてもらっている。

当然乗馬はしたことが無かったから乗る感覚に慣れるまで結構な時間を要した。

乗るときは、クラピカ王子が抱き上げてくれた。


「……姫、馬の乗り心地はどうです。」

「ええ、さっきよりいくらか慣れました。…高いところにいると涼しくて気持ちいいです。」

「これは私の愛馬で…とても気に入っているんです。」


私が前に乗っているために後ろの王子の顔は見えないが、

大体表情が想像できるくらいに愛しむ声だった。



「とても素敵な馬です。毛並みも良いし…普段から手入れなさってるんですね。」

「はい。気に入ってもらえてよかった。」



すると商店街の前についたので馬を降りる。

ここからは流石に王でも緊急時意外馬の出入りは禁じられている。



「どうぞごゆっくり。」



商店街の門兵が深々と頭を下げた。



………ついに、商店街まで来てしまった。



近くにあるのはキルの家。気にしないで歩けるわけが無い。

……普段民族衣装をまとってみる町と今見る風景は大分違うような気がした。

何一つ違うものは無いのに。

否、違うものはあたしだけだ。他じゃない、あたしなんだ。

それは、ドレスで歩いていたら違うけど。



そうじゃない。

外見の問題じゃない。






















あたし自信の、心の問題だ。




























何が変わったんだろう。

あの時と今、あたしのこころは何が違うの?




結局分からないままだった。これ以上考えているとまた王子に心配かけちゃう。

あたしは一国の姫。自国の城下町くらい堂々と歩けなくてどうするの。

……もしもキルに会ったとしても、その態度だけは変えちゃいけない。



できるだろうか、あたしに。

今まで一度も城下町を堂々と歩いたことのないあたしが、今更堂々と歩けるの?

でも、今はやるしかないんだ。





どんなことがあってもキルと目をあわせちゃいけないし

たとえ会ったとしても不自然にしてはいけない。



ただの一国民。



そう考えなければならないのだった。





































あたしが取りたいのは



誰の手か



あたしが突き放したいのは



誰の胸か











それはあたしが一番良く知っている。





知っているからこそ、悲しいんだ。








しなければならないことがはっきり分かってしまったから。



























































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あとがき

ついに城下町突入です。

ちょっとずつですけど話がすすんできましたね!(ぁ


*輝月