「愛してる」

それで足りない分は何で補えばいいのですか。












































せ っ て 何 だ っ け  −08
               
一番に想うもののために出来ることがあるのなら












































どうしても、触れてみたいものがあった。

どうしても、直接この目で見て見たいものがあった。


そんな衝動に駆られたのは何でか分からない。


一目見た瞬間に興味がわくという経験は今までに早々ないものだった。

彼女は自分の思考をいっぺんに攫って行ったと言っても過言ではない。





彼女と出会って今迄。分かったのは、どの想いも決して通じ合うばかりではないのだということだけだ。






初め会った時の彼女はとても美しかった。端正な顔つきをしていたこともあるが、それだけではない。

彼女の纏うオーラのようなものが、既に美しかった。それは教養の類のものでも、ない。

他の人には会得できないような、何か。


写真を見ただけでは見えなかった彼女の一部分を知った。

だがその一部分はあまりにも大きすぎて、私は考えるのをやめてしまうくらい許可量を超えていた。



次に知った彼女は、あまりにも儚くて脆すぎた。今迄のことを全て覆すかのような脆さ。

少しでも触ったら、傷つけてしまいそうな。

少しでも束縛したら、泣いてしまいそうな。

そんな弱さを内面に秘めているのに、彼女はそれを外側に極力見せないように努めていた。

努めていた、と分かってしまうほどにぎこちなく。


だから近づけなかった。それ以上のことに手を出せなかった。何にも踏み切れなかった。

否、彼女が近づけないようにしていたのかもしれない。



それから暫く経ち、彼女と会わなかった一日の間に彼女は婚約受理の申し出をした。

心の底から嬉しかったが正直なところ、完全に疑いがなくなったわけではなかった。

流石に彼女が泣いて抱きついてきたときには驚いたが、

やはり未だに本当に笑っている顔は見ていないなと思ってしまった。




それでも楽しく話している彼女が、どぎまぎしている彼女が、何より愛おしくて。

一緒に過ごせるのだと思ったら気持ちが理性をおいこしてしまっていた。

彼女に拒絶されて我にかえったからよかったものの、何も抵抗されないままだったら、

きっと彼女の気持ちを考える余裕も無く彼女の唇を奪っていただろう。




彼女のことが好きで。

愛している、から。

例え煩がられるほどの大きな感情になったとしても、

決して無くならない。無くせない。













なのに。


「…………」


何も言葉は発しなかった。

彼女の父親に今日のところは…と言われても立ち上がることもしなかった。



また、だ。

彼女に拒絶されてしまった自分。

さっきまであんなに笑っていたのに、父との密談を交わした後にぱったりと笑うのをやめてしまったのかのような。



心で泣いた。怒った。地団太を踏んだ。




はいそうですかと帰る気にはならなかった。

寧ろ、娘の婚約者を、それも式の日取りまで決定しているような人を帰すとは、と腹立たしい気分にさえなった。

表情には出さないでいられたが、何か言葉を発したらそれと同時に口をついて王様への侮辱や皮肉の言葉が出て来はしないかと恐れた。



何も喋らないでいる私を不思議に思ったのか、王、ゼノは怪訝な顔つきでたずねた。



「どうかされましたかの。」

「…先ほど…」


慎重に言葉を選ぶ。極力表情を外に漏らさないようにする。


「城への出入りは自由にしていいとおっしゃられましたね。」


先ほど交わした小さな約束の中に入っていた言葉を思い出しながら呟く。


「…確かに。」

「では、私のことはここにほうっておいていただけませんか。」


クラピカは至極真面目な表情でゼノに言った。






































写真を持ったまま眠ってしまっていた。

相当疲れていたのか、とてもぐっすり眠れたようで目覚めははっきりとしていた。


洗面所に行こうとして部屋を出ると、隣にある応接間から僅かながら光が漏れ出しているのを見つけた。

ろうそくの光のようで、ちらちらと薄暗く揺らめいていた。


そっと、ドアを開けて隙間から中を覗く。




「……え…―――」



そこには、毛布に包まれて静かに寝息を立てているクラピカの姿があった。


帰ったものだと思っていた。いや、それ以外に何が予想できただろう。

自分が帰ってくれといったのだから。そして父様はそれを承知して彼に伝えたはずなのだから。


ではなぜ、今クラピカがこんな薄暗い部屋に一人で質素な毛布などに包まれて寝ているのか。


思わず、ドアを空けて部屋の中に入る。彼の隣のソファに腰掛ける。



「王…クラピカ。」

そっと彼の名を呼んでみる。起きてくれたらそれはそれでいいけれど、このままもう少し眠っていてくれてもいいと思った。

普段の威厳ある顔、優しげのある顔、そのどれもが大人の表情であったけれど、

眠っているこの時の表情だけはまだまだ十代という幼さを垣間見せている。



「クラピカ。」


まだ呼びなれないその名を、もう一度そっと呼ぶ。

もぞり、と隣で毛布が動いたかと思うと、薄目を開けてクラピカが起きた。



「……姫…」

、と。」

…やっと、顔を見せてくださいましたね。」


寝起きにも関わらずクラピカがあまりにも優しく笑うものだから不意を突かれて心臓が高鳴る。



「何で…クラピカはまだここにいるのですか?私は無礼ながらも…今日はお帰りくださいといったのに…」

「聞きました。ただ私が勝手にここにいただけです。国王から城の出入り自由の許可はもらっていますから」


自分がぐっすり眠っている間、クラピカはずっと起きていたというのか。

自分がいつか部屋を出てきてくれるのではないかと、待っていてくれたというのか。



この人は、優しすぎる。




自分の大事なもののためになんだって捨ててしまえる。

自分をあまりにも過小評価しすぎている。



「………ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」


ひたすらに謝りたくなった。頭も上げられないほど申し訳ない気分になった。

クラピカはどんな顔をしているだろう。きっとまた笑っているのだろう。



。ごめんなさい、ではなく、ありがとうと言ってほしい。」


クラピカはやっぱり笑っていた。


「そうすれば、私も貴方もいやな気分にならなくて済む。」

泣けた。

単純に、感動的な映画のワンシーンを見たときくらいに心が締め付けられた。



「……ありがとう……」


感謝の気持ちではなく、謝罪の気持ちがこもったありがとうしかいえなかった。




そっとクラピカに抱きしめられる。




ごめんなさい。

あなたはこんなに一途に待っていてくれたのに

あたしは全然違う男の人の写真を見ていたりして。

ごめんなさい。

帰ってくださいなんて、言ったりして。



でも、待っていてくれてありがとう。



































クラピカ王子の考えていることは理解できない。それにまさか反抗してくるとは思わなかった。

帰ってくださいという言葉は自分ではなくからの伝言であるにもかかわらず、

始終彼は此処にいるといって聞かなかった。駄目だという理由も見当たらず渋々承諾した。




「全く……一途過ぎるのも考えもんじゃな…」











クラピカが言った言葉にゼノ王は耳を疑うかのように聞き返す。


『…………何と?』


ほうっておいてくれと、そんなことが出来るわけがない。


『貴方はに何を言われたのですか。の気分を暗くするようなことは先ほど一つも起きてはいない。

 そうすればの私を帰らせるような言動の原因は貴方にあるとしか思えないのですよ、国王。』


半分あたりであるが、半分ははずれだ。

確かに自分の話が原因だが、彼女が写真とともに部屋に閉じこもるとは思っても見なかった。




『私は此処に居ます。この部屋を使うのなら廊下でもかまわない。居させてください。』


部屋を使う予定もなければ、断る理由もない。


『そうかの…暖炉は好きに使ってよい。難なら使いの者をやるが。』

『要りません。寧ろいないほうがいいです。』





頑なに彼女を待つと言い張るクラピカを後ろ髪を引かれる思いでおいてきた。

が出てくる可能性はゼロに等しかった。






「じゃが…上手くいったようじゃの…。」


それにしても。


「………あの男との関わりの記憶はどうなっとるんじゃ…」


一番聞きたかったことは結局有耶無耶になってしまった。









































気が付いたら、朝になっていた。


「……んー…?」

カーテン越しに伝わる朝日の眩しさに目を細める。いつの間にかすっかり寝てしまったようである。

ソファに腰掛けた状態のまま眠っていたためかいくらか首が痛い。

大きく伸びをすると間接が音を立てたのであわてて伸ばした手を下ろした。


ふと隣を見やると。


「ぅあっ!っげほッげほッ」


クラピカの存在に驚きすぎてむせるの声でクラピカが目を覚ます。

直隣に寝る彼はの存在を確認すると直に笑顔を作ってみせる。

それが彼の性質なのかどうかは知らないが、いつでも何処でも最高に笑う人である。



「おはよう、。」



間近で笑われては心臓が持たなかった。







はその場にもう一度眠りに付くこととなった。














































































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あとがき

え、何、最後のあれはギャグですか。いやね、クラピカの笑った顔を間近でみたら失神するだろうよ、と。

今回はクラピカの心境編でした。少しずつ話が進んできましたね。(どこがだ

そろそろまたイルミが出てくるかな。

ではまた次回で。


*輝月