ただ一つ守りたいものがあったんだ。

こんな、ちっぽけな僕にも。















































大 好 き だ よ 。
















































いつだってそう、僕のために笑っていてくれたのは

唯一愛しい存在だった

僕のために笑ってくれる人なんか一人もいなかったのに

そのなかで僕にだけ微笑みかけてくれた。


その微笑みは誰よりも優しかった。

誰よりも眩しかった。


十祭司の身でありながら僕はその少女に恋をしてしまった……




「ニクロム」

「…え?」

「ニクロムの…」

「なっ…??…」







「大馬鹿者ッッ!!」







……はずなんだけどなぁ…







はどこか負けず嫌いと言うか、頑固と言うか。

思い違いをしたら一人で突っ走るタイプで。オマケに口が悪い。

今日も何か勘違いしてるみたいなんだけど…勿論僕にはさっぱり分からない。



仕事から帰ってきてあっという間もなく、が凄い勢いでかけてきたと思ったら。

ただいま、といった僕の言葉をシカトして、は僕を“通り過ぎた”。


『…へ?』


唖然としてしまった僕も僕だけど。


でも、がちょっぴり目に涙をためてたのははっきり分かった。


その後僕は、駆け出してしまった彼女を追うにも間に合わず、

伸ばした手は宙をさまよっていた。

彼女の姿は、扉から見た限りの景色にはもう無い。




「…はぁ、一体僕が何したって言うんだ…。」



ため息交じりに言うこの台詞。コレで何度目だ。






























「あーあ…ニクロムのやつ…あたしの気も知らないで。」


は、公園の木の上に上って枝に腰掛けていた。

ううん、と頭の後ろで手を組むと、木の葉の隙間から見える空をぼーっと眺めた。



そもそもの、の怒っていた理由と言うものを説明すると…。



今日は、の誕生日だというのにニクロムは仕事ばかりだということ。


今朝だって、散々「おめでとう」たったその一言をずっと待っててやったのに

ニクロムときたらそんなのお構いナシに出発の準備を進めてる。



あたしの気持ちも、少しは分かれってんだ。





知らん顔をしているニクロムを見ていると、本当に忘れてしまったんじゃないかって

本当に不安だったのに。

ニクロムはたまにあたしをからかう癖がある。


だから、今回もまあそんなところかって…今までのことから学習してきた。



なのに…なのになのになのに!!…どうして…?




『じゃ、いってくるから』




結局お祝いの言葉はニクロムの口から聞けることなく、ニクロムは家を後にした。

は、信じられない…といった様子で暫く玄関に突っ立っていた。





言ってもらえなかった「おめでとう」。


なんで、あたしはこんなに悲しいんだ?


たった一言、言ってもらえなかっただけなのに。





その悲しみは、機嫌が悪くなっちゃうとか、そう言う時限のものじゃなくて。

つんと拗ねちゃうとか…怒っちゃうとか…そうでもない。

もっともっと、深い悲しみ。







は、目から溢れてくるものを押さえきれずに、ぽろぽろと流し続けた。


悲しい。

あたしは悲しいから、泣いてる。

でも、原因なんて分かんない。



感情についていけずに戸惑っている心。



「…ん…止まれっ…なんで…出てくんだよぉっ…!」



きつく目を押さえてみたり、ごしごしこすってみたり。

色々したけれどそれはどうにも止まってくれないようで。



締め付けられた心を開放することも出来ないまま、

はただ木の上で涙を流すのだった……。








































一方その頃、ニクロムはというと。











「…はぁ…、何処にいるんだよ……」



近所という近所は全て探した。が行きそうな所も全部。




ニクロムがどんなに必死になっても、そう容易く見つかるわけが無いだろう。

は、下ではなく「上」にいるのだから。

それにまさか「木の上」なんて分かるわけが無い。







「(取り合えず、少し休憩するか…)」







ニクロムは最寄の公園へ向かった。さっきもイヤと言うほど探した場所だった。

大きな木下にあるベンチにドサリ、と腰をかけた。































「(やば…)」


は至極あわてていた。


自分の腰掛けている木があるまさにその下のベンチには、ニクロムが座っているのだ。

ちょっとでも音を立てて、ニクロムが気付いてしまったら。



こんなに泣きはらした顔では、ニクロムに会うわけにも行かなくなったのだった。




「(あたしを、探してくれてたんだ…よね…)」




さっきもたしか、ここにニクロムが来ていた。

あたしは気付かない振りをして木の上でじっとしていた。

ニクロムがこっちにくることは無かったから、ふぅ、と一息ついたのだけれど。





「(………)」





おめでとうも言ってくれないくせに、こんなに優しいなんて反則だ、とあたしは思った。

ここまで探しに来るくらいなら、恋人の誕生日の一つも覚えとけってもんだ…。




ニクロムが大分疲れたような顔をしている所からして、

きっとそこらじゅうを探し回ってきたのだろう。あの、冷静なニクロムが…。

ぷっと吹き出しそうになって、あわてて手で押さえた。

途端、その笑いの代わりなのか、涙が溢れてきてしまった。



抑えた手の上をつと涙がつたっていった。























あたし、こんなにも大事にされてる





























じゃああたしは…?



























ニクロムのこと…あ…愛してるのに…





























大分息も整ってきたのか。また、ニクロムは立ち上がろうとしている。

は迷った。





























ここで、出て行ってしまえば楽かもしれない。

「ごめんね」って一言言えばすむのかもしれない。


けど


悪いのはあたしじゃないんだから、謝る必要なんて…







無いはず、だよね…?




























は、下にいるニクロムをじっと見つめた。

ふう、と額の汗をぬぐい、また探しに出ようとしている。





























…あたしはここにいる…




































ニクロム、あたしはここにいるんだよっ!!















































「まって、ニクロム!」












































叫んでしまってから、はっと口を手で押さえた。




もう、遅い。




ニクロムは弾かれるように後ろを振り返って、目を丸くした。



「…!?」



ニクロムが振り返った先には、体を枝から精一杯に乗り出して、

こちらに呼びかけているがいた。




、いいからそのままじっと…」

「ニクロム、行っちゃやだぁッ!!」

、あせるな!…うあぁ〜!!」

「え?あ…うわぁっ!!」



言わんこっちゃ無い!


は、案の定枝から落下した。


























まっすぐに、ニクロムめがけて。























ドッターン!!


























「いったたた…」

「はぁ…ったく…」


何とか間一髪でニクロムに受け止められただった。



何でも突っ走ってしまう、の悪い癖だ。




「僕が一歩遅れてたらどういうことになってたか!少しは反省し……」

「……?」

「どうしたの、その目」

「…っ!!」




腫れた目に気がついたニクロムが、の顔を覗き込む。

ははっとしたように目を両手で覆った。




「…もしかして…ずっと泣いてた?」

「……」

「それは肯定と取っていいんだね?」

「……」


は、こくりと頷いた。



怒られることを覚悟して、肩をすぼめて…。










「(っていうか、未だ僕の上にのってるって気づいてるのかな…?)」


ニクロムは思ったが、あえて言わないことにした。



「へぇ…それは、僕のせいってことだよね…。」

「…だって…ニクロムってば…」

「?」

「あぁ…もういいや、言ってやる!
 ニクロムがッ…今日あたしが誕生日なの忘れてるからいけないんだ!!」








「…はぁ…?」









やれやれ、と言う顔でこちらを見ているニクロムに、

は?を頭いっぱいに並べた。




、何か勘違いしてない?」

「は?何が。」

「あのねぇ…僕がの誕生日忘れるわけ無いだろ…?」

「だって…そしたらなんで一言言ってくれないの…」

「……分かってないのはのほうだよ。」





は突然、自分の体が右に倒されたので驚いた。












ドサッ











「え…」

「これって…形勢逆転ってヤツ?」



体制的にも、状況的にもね。



そう、ニクロムが付け足すのを聞きながらは赤くなる顔を抑えられなかった。



先ほどまでは飛び降りたが当然のごとくニクロムの上に載っていたのに、

勢い良く喋って状況的に押していたのもきっとだったのに、



「(形勢逆転…まさに。)」



そう思わざるを得なかった。つーか納得してる場合か。




「あのさ、聞いてくれる?。」

「…はい。」
                
「僕が今日おめでとうってに言えなかったのは…」



ニクロムは、にぐっと顔を近づけると、にこりと笑っていった。







「僕が、の誕生日パーティを内緒でやろうとしてたからだよ。」


―…え…?


「その前におめでとうって言ったら嬉しさも半減じゃない?」



―然様ですか…



「でも…そう考えると、さっきのも僕に対して結構冷たかった…。」

「だ、だってあれは…」

「…まあ、そう言うところも可愛いからすきなんだけどさ。」

「!……」


何も言わずに頬を染めるを見て、くすりとニクロムは笑ったのだった…。


ホント、素直だなとおもう。顔を背けているから今僕の顔は見えないだろうけど、

こんな君に、僕だって毎日…馬鹿みたいにドキドキさせられてる。


今だってほら。実はこんなに赤くなってるの、は知らない。









まぁ、知らないなら知らないで、教えてやんないもんね。













ニクロムはまた微笑むと、「。」と彼女の名を呼んだ。






「…え?―」


単純に引っ掛かったが顔をこっちに向けた瞬間、

ニクロムは其の唇にキスした。



「んんー!!」



唇が離れた瞬間には、はぁ、と大きく息をついた。




「こ、ここ公園だよ!?」

「そんなの関係ないよ。」

「…!!」

、僕はのこと大好きだから。」



強制的に返事を返さなければならない状況になってしまったは、

顔を赤くしつつもはっきりと、目の前に居るニクロムに向かって言葉を吐いた。








「あ、あたしも…ニクロム大好き!!」







そして、上に居たニクロムを思いっきり抱きしめたのだった。

もちろんニクロムは「重力+の力」での上にバタりと倒れた。



「痛〜…なにすんのさ!」

「あはは!図に乗ってるからいけないんだぁ!」

「…ぷ」

「あ!笑いやがって!!」

「あはははは…」

「…ははは」





何だか可笑しくなってきた二人は、遂には笑い始めたのだった。


抱き合いながら喧嘩して笑いあっている姿は

傍から見ると果てしなく怪しいものであったが、

当のお二人はとても楽しそうなようなので良しとしよう。








「あ、そうだ。」

「…ん?」

「ハッピーバースデー、。」

「……ありがとっ」


また真っ赤になった顔を見て、ニクロムは満足気に笑った。



「(主導権は当分僕のものだね…)」



可愛い彼女を見ながら、そう思った。


























その後の誕生日パーティは、パッチ族の皆がお祝いしてくれたとの事。


コレは余談だが、ニクロムはどこか楽しくなさそうにしていたと言う。






























































+++++
あとがき

初・マンキン夢はニクロムでした!
いやー、鬼亞がニクロムだいすきなもんで…。
半強制的にそうされたんですけどねw
ちなみに私はマンキンではこれといって好きなキャラは居ません。
でもやっぱり、一番と言うならニクロムかもしれませんw

*輝月