『サクラ』



































4月の中旬・現在午後3時。桜が満開に開き、今はお花見シーズン。
どこの公園もお花見の陣取り合戦がくりひろげられている。
現にあの連中(ばっちゃん・アル・ウィンリィ・ベル)もお花見に行ったのだ。
勿論オレだって「お花見に行こう」と誘われた。だが、オレは行かなかった。
気分がのらなかった。いや、のらなかった訳じゃない。
ただ、今日は何か大変なことが起こる予感がしたのだ。




□■□




 オレは一人で土手にある桜並木の道をぶらぶら歩いていた。
ここにある桜は他に比べてあまり咲いていない。7分咲きといったところか。
満開の桜から見ればまだまだ咲いていない。
だから、花見に来る客はおらず辺りは静まりかえっていた。
ただ聞こえてくるとしたら、土手下の川・風に揺らされカサカサなる桜・歩くたびにじゃりじゃり言う砂利道の音だけだろう。本当に人っ子一人いなかった。
しかも、町からはずれているため、民家の一軒も無い。
なんだか桜がとても寂しそうに見えた。
オレは、昼寝が出来そうな場所を探した。最近の仕事の量の お蔭でふらふらだ。
オレは土手に面した桜の木の根っこを枕代わりにして、土手にねっころがった。
まだ咲ききっていない桜の間から青い空と、そこにぽっかり浮かんだ白い雲が見えた。

 オレはしばらくボーっと空を眺めていた。
風に揺らされ、桜はカサカサなる。
そしてその風はオレのところへやってきて、懐かしい香りを運んできた。
甘いようで・・・うっとりさせるような香り・・・。そう、アイツのにおいを運んできた。

 アイツは、「 」といって、闇よりも黒い漆黒のさらさらの髪が印象的なオレの幼馴染の少女だった。
髪は肩にとどくくらいで、性格は明るく、誰にでも平等で誰も愛し、誰からも愛されていた。
そしては・・・誰よりも足が速かった。の前ではどんなスピード自慢もにかなうものはいなかった。
は「スピードの王者・」と呼ばれ、いつしか有名になり、そのうわさは政府にまで伝わった。
それを聞いた大統領は、を招き、テストのようなものをした。
それはオレが受けた錬金術師の資格を取るテストで、項目は単なる「走る」とだったが、
それは表面で本来は「が作り出す風」を見るためにあった。
自身もそのことを知っていたようで走った後に、
しばらく勉強していた錬金術に似た術を少し披露した。
それは風を操る術で、「微風召喚術」という術だった。
勿論大統領はすぐに「風の錬金術師」という名を与え、政府の犬になるように命じた。
勿論がそれを断るはずが無い。オレが政府の犬になった三週間後、も政府の犬となった。
はいつしか仕事場にいなくてはならない存在となっていった。
事件が起きたときは一番になって駆けつけ、人を一人も殺すことなく事件を解決させていった。
普段の仕事でも何事に対しても正確で、いつも明るく振舞い、気が効く子だと評判だった。

 だが・・・が政府に入って3ヶ月半が過ぎようとするとき、ある事件が起きた。
それは、が政府を裏切り「レジスタンス団(政府に反抗するもの)」という政府に敵対する組織にはいってしまったのだ。
いまだが政府を裏切った理由を知る者はおらず、謎のままになっている。
みんな最初は、「信じられない」・「が裏切るなんて、何かの間違いだ」など口々に言っていたが、
時がたつにつれのことを口にするものはいなくなってしまった。
いや、単に忘れただけなのかもしれない。
こんなことがあっては、誰もが忘れたくもなるだろう。
だが、オレはのことを忘れたことは一度もない。
たぶん、それはオレからへの「愛」という感情が俺の心の中にあったからだろう。
例えがオレの敵に値する立場にあっても自分の気持ちにうそはつけない。
はっきり言って、今も昔ものことが好きだ。だからさっきみたいなにおいがしたとき、
近くにがいるんじゃないかと本気で思った。

―そんなことを思ったオレは馬鹿だなあ・・・―

としみじみ思いながら俺は右側に横になり、少し眠ろうと目を閉じた。
心地よい風・流れる水・暖かい春の日差しのおかげで、俺はすぐ眠りを誘われた。
だが、そんな夢見心地のいい環境はすぐに壊されてしまった。

「そんなところで寝てたら風邪引くよ??」という、に似た声によって。
「っ?!」

オレはガバッと上半身を起こし、声がしたほうを見た。
思ったとおり、そこには闇よりも黒い髪をした少女がオレの横に安座して座っていた。
オレと目があうと、はエヘヘと笑って見せた。は何も変わっていない。


オレが恋した、の笑顔さえも。


「久しぶりだね、エド。」 

もう一度は笑った。今度はさっきの笑顔よりもずっと大人びた笑顔だった。

「あ、あぁ。久しぶりだよな。1・2年ぶり・・・・だっけ。」

オレは心臓がバクバクなるのが分かった。たぶんがいるせいだろう。
オレはにばれる前に、このバクばくが止まるのを祈った。

「今日はね・・なんかエドにあいたくなってきたの。ねぇ、エド。政府はどう?仕事は楽しい??」
「あぁ、楽しいよ。みんな・・・みんな楽しくやってる。」

オレがそういうと、は そう、よかった。
といって、土手下の川へと視線を落としたのでつられてオレも川へと視線を移す。

「ちっちゃいころ・・・あの川で、エドと、ウィンリィと、アルと、あたしの4人で遊んだよね。」
懐かしむようにはつぶやいた。

「いろんなことがあったよね・・・」
「あぁ・・」

の言葉にオレはそうとしか返せなかった。

はいったい何をたくらんでる?何で政府側のオレに会いに来たんだ?―

俺は懸命に考えた。
だが、隣にいるのせいでうまく考えがまとまらない。
透き通るように白い肌・整えられ、つやのある唇・大きな瞳にくるんとカールした長いまつげ・・・。
どれも色香を感じさせ、オレの思考回路はめちゃめちゃになった。
オレはしばらくして、やっとのことでひとつの結論に達した。
それは、

はもう一度政府に戻りたい。だから、オレに間を取ってほしい。』(?)
という安易な結論だった。多分そこには、
に帰ってきてほしい』
というオレの願いもはいっていたのかもしれない。

「なぁ、。」
「なに、エド??」

は川から俺の眼へと視線を戻した。
そのおかげで、俺の胸の高鳴りがいっそう高まったのは言うまでも無い。

「えっと・・あの、さ。ってさ、もしかしたら・・・もしかしたら、だぞ??
 もしかしたら・・・、政府に戻りたかったりする??」
 
オレはごくり、と生唾を飲み込んだ。

「・・・そう、だね・・・。うん。もどり・・たい。政府に帰りたい。」
「っ?!だったら「でも、もう帰れない。」

の言葉に、オレは一瞬固まる。

「帰れない・・・??」
「うん。帰れない。」

はオレの言葉を繰り返し、悲しそうな眼で俺を見た。

「あたしはもう帰れない。そんなこと、出来るはず無い。そんな権利ないよ。
 勿論ここに・・エドの隣にいる事だって、本当は許されない。」
「その・・・組織の決まりかなんかか??」

オレの安易な考えに、は首を振って、悲しそうに笑った。

「あのね、エド。あたしが何で、政府側の・・敵であるエドに会いに来たと思う??」

突然のことに、オレは言葉を失い、ただを見つめるしか出来なかった。

「あたしは・・自分の気持ちを確かめに来たの。
 あたしね、政府を裏切ってからみんなのことばかりを考えるようになった。
 あの空間が・・あたしの居場所だったのかもしれない。」

そこまで言うとは、オレに微笑みかけた。

「みんなのことを考えるとき、一番初めに出てくるのが笑った顔のエドだった。」

エヘヘと照れたように笑う。オレは耳を疑った。




―オレの、笑った顔・・・?―




「エドがいないと寂しいの。それは政府に勤めていたときも同じだった。
 で、もしかしたら・・・エドがすきなのかもしれない、とおもって・・今日、確かめるために会いに来た。」
「・・・・。」






「それでね、改めて今日あって分かったの。あたし・・エドのこと、好きなんだ。」







突然の告白に、真面目に耳を疑った。




―オレのことが、好き―




がオレの事好き、だなんて考えたことも無かった。
確かに、そうだったらいいなとは思ったけど。
だけど、ほんとにそうなんて・・・。
は誰からも愛されてたからてっきり、誰かと付き合ってるんだと思ってたのに。
だけど、やっぱりのことが好きであきらめるなんて出来なかった。
せめてそばにいるだけでも、と思ってたんだ。だけどは、今オレのことすきだっていった・・。
まだ考えがまとまらないのには話し始めた。

「返事は聞かない。もうすぐお別れだから。だから、最後にこれ。」

そういうとは、自分の首から透き通るような水色の涙の形をしたペンダントをはずしてオレの首にかけた。

「あたしの形見だと思って・・大切にとっておいてね。」


――形見?そんな・・今から死ぬようなこと言うなよ、演技でもねえ・・。――


オレはそういおうとしたが、声が出なかった。
オレは喉がおかしくなったのかと思い、しばらく声を振り絞ろうと必死だった。

・・・だが、声は出てくれない。
  

――まるで何かの魔法にかかったみたいだった。――


「声は、出ないよ。そうしないと、貴方は何か言ってしまうでしょう??
 そんなことはさせない。あたしがここにいたいと願ってしまうから・・
 もうあたしは、これ以上ここにいてはいけない、帰らなくちゃ。それじゃ・・・。」                                                      
 そういうと、は立ち上がったと同時には何かの呪文を唱え始めた。
それは「微風召喚術」の呪文だった。
召喚されたのか微風はの周りに渦を巻くような形になり、またその風に乗り桜の花びらも渦を巻いた。

『エド・・実はね、もうあたしは死んでるの。
 あ、さっきのは死んだ人が未練を晴らすためだけに使わせてもらえる、
 「聖声封印術」って言って声を封じることが出来る術なの。』

あ、声はあたしの姿が見えなくなったら元に戻るから。そういったの体は透き通るように消えてゆく。

『死んだものは、未練が残っていると成仏できない・・
 あたしの未練は、エドに気持ちを伝えられなかったことよ。
 だから、今日こうやって会いに来た。ただそれだけのことよ。今までありがとう・・。』

そういうと、は眼をつぶった。
体はほとんど消えてゆき、の後ろの風景が見えるほどにまでなってしまった。





――行くなよ、。せめてオレの気持ちを・・・オレは・・オレだって、のことが好きなんだ!!――





オレは、声が出ないにもかかわらず叫んで手を伸ばした。
オレの手はを望んだが、ただつかんだのは一枚の桜の花びらだけだった。
 
の姿は、もう見えなくなっていた。が最後の最後に自分の風に乗った桜の中に消えてく直前、オレは見た。
 
一瞬、桜吹雪の中で俺の大好きな笑った顔のが・・。
そして、聞こえたんだ。















――エド・・大好きだよ・・――





















という、の声が。 




□■□




 オレは額に当たった桜の花びらで眼が覚めた。
もう日は暮れてて、電灯の明かりが寂しそうにともっている。
オレは立とうとして上半身を起こすと、くらっという目眩に襲われた。
オレの癖のようなもので、寝すぎたときになる症状だ。
腕時計を見ると、もう7時をまわっていた。
あれから4時間も経っていたのか・・・。
などと、のんきなことを考えていた。
だが、オレは気付いた。

――じゃぁ、にあったのも夢だったのか??――

と。だが、オレの手のひらにある、つかんでしまった桜の花びらと、
胸に光る透き通るように青い涙の形をしたペンダントが光っていた。

さっきのことは、夢なんかじゃないよ

と主張しているようだった。
今なら、ちゃんと成仏するためにわざわざ返事を聞かないで去って逝ったの気持ちが分かる気がする。
オレは立ち上がると夜空一面に広がる星のなか、ひときは目立つ星に向かってこういった。

―――愛してるよ、―――

隣でが、笑った気がした。


























































                                         


キャラとのふれあいの間(あとがき)―――――

 

 鬼)「ついにやってしまいました、エド視点でシリアスドリーム!」
 エ)「そしてあえなく失敗という悲しい結末・・・(泣)」
 鬼)「うわぁぁあぁぁぁぁぁぁぁん!!これでも、がんばったんだよ!?」
 エ)「少ない脳みそでがんばっても、結局はこうなるんだ。来世に期待をかけるんだな。」
 鬼)「えぇぇぇぇ!?そんなはっきり・・」
 エ)「本当のことだ。じゃぁ・・・逝ってらっしゃいww」
 鬼)「うわぁぁん。流星さん助けてっ!!ぐっは(吐血)」
 エ)「わりぃな、。こんなくだらないとこまで読んでくれて・・・。」
 鬼)「次回は、素直にぎゃぐをっ!!」
 エ)「まだ生きてやがった!!じゃぁ、ここまで読んでくれてほんとにありがとうな、。また次回会おうな!!」 

エドは、作者暗殺という重大任務を遂行するのであった。(笑)