「………」

は暫く黙って、うずくまったエリザベスを見つめていた。



可哀相な人だった、ような気がする。

あくまでこれは私の考えに過ぎないけれど、この人はきっと小さい頃、愛してもらえなかったんだ。

だから、お金や地位や財産、それ以上のものはないと思ってて、

全部を持っている自分、それに勝るものも絶対にないと思っていた。否、思わされていたんだ。

この人にどんな過去があったかは分からない。分からない、けど。


なんだかとても、可哀相に見えた。見えてしまった。





「どした?。ぼーっとして。」

「え、いや…あの…こんなこと聞いたら怒るかもしれないけど…」


ん?とキルアが小首を傾げる。


「あの人…エリザベスさん、殺しちゃったの…?」


キルアは暫く黙っていたが、そのうち小さく舌打ちをして、言った。


「生きてるよ。」

「…え?」


驚いて目を見開くと、キルアがと目をあわせないようにしつつ、言った。


の前で“殺し”はしない。……がハンター止めてから、ずっとそれを決めてた。」

「キルア……。」



覚えていてくれた、のかな。

あたしがなんでハンターライセンスを取ろうとしたのか、そしてハンターを止めたのか。

もう何年も昔の話だから、忘れてしまっていたって可笑しくない、話なのに。



「ありが……ん?」

「へ?」


ありがとう、といおうとして言葉をきったは、凄い剣幕でキルアに詰め寄る。


「何、この傷…!」

「ああ、これはさっきの男とやったときに…」

「何でもっと早く言ってくんないの!?」


涙目で訴えるものだから、流石のキルアも焦りの色を隠せない。


「お、おい泣くなって…!ほんと、たいしたことないから…」

「怪我の大きさの問題じゃないの!!…あーもう、これじゃ何のために私がいるのか…」


は、そっとキルアに抱きついた。自らの服にまで血がつくのもかまわず、抱きしめる。


「もう呆れるわ……[女神の吐息]」


すると二人の周りにだけ暖かい春風が吹き込み、自然とキルアの感じていた痛みも引いていく。

の能力を見るのはキルアも久しぶりだった。


治療が終わっても、はキルアを離そうとしない。

。」

キルアがそっと声をかけて頭を撫でてやると、余計にきつく抱きついてきた。

そして、肩を震わした。



…?」

「………ッ……ねぇ…キル、ア…」

「…なんだ?」

「何で、キルアは私のこと、好きなの…?」


思いがけない質問にキルアは一瞬目を丸くするが、やっぱり可笑しくなって、笑った。


「わ、らわないで、マジメに、答えてよッ…」

「じゃあ一つ言わせて貰うけど、」


キルアはを無理矢理引っぺがして、その眼を見つめた。



「今オレが見てるも、オレに触れているも、オレの傷を治してくれたも、

 オレは、オレが感じてる、全部が好きだ。…大好きなんだよ。」



そして、まだ涙で震える唇を、そっと塞いだ。

そうしている間にも静かに涙を零すに耐え切れず、今度はキルアから抱きしめる。


「あーもう泣くなっつーの!ブスになるぞ!」

「いーよ、もとから可愛くないもん!」

「……。(十分可愛いっての。)」


とにかく、とに呼びかける。


ん家、戻ろうか。…ここ、寒いだろ。」

「うん。……でも、あの人は?」


が気絶して倒れているエリザベスを指差して言う。


「…まぁ、あとでオレが片付けとく。」

「そう…」

「お、おい、片付けるって何も殺すだけが片付けるって意味じゃないって」

「……じゃあ、キルアに任せるね。……ありがとう、キルア。」

「いーのいーの。礼には及ばないようなことだよ。」


何時の間にか、吹雪のようだった雪は、ほんの僅かな粉雪になっていた。




















二人はようやく帰路についた。本来ならば何事もなく、キルアがこの道を歩いているはずだったのだ。


「ウチまでって結構遠いんだね…なんかキルアに悪いや…。」

「気にすんなって。それにオレは現役バリバリだから、コレくらいなんてことないし。」


ははは、とは笑った。何だか寂しそうな顔だった。



「……。」

「んー?」


隣で白い息を吐くを見る。


「オレ、できるだけ早く、家出るよ。」

「…え?」

「何とか親父説得して、さ。」


何のことか分からず、がキルアのほうを見ると、キルアはニカっと微笑んだ。


「オレは……オレはハンターも殺し屋も、もう止める。止めたい。

 …完全にはムリかもしんないけど…できるだけ、な。………そんで…」


キルアは照れくさそうに頬を引っかいた。



「…その…その時は…。オレと、一緒になってくんねー、かな。」



キルアは俯きながら、言う。



「今回のことで、身に沁みてわかった。…お前一人じゃ何が起きるかわかんねーし…

 よく考えたら、今まで何もなかったことのほうが奇跡に近かったんだな…って。」



そして、意を決したようにのほうを向いた。




「お前の傍にいて、お前を守りたいんだよ。」




はそんなキルアの顔を見て暫く呆然としていたが、

言葉の意味を理解して、一気に顔を紅潮させた。


「う……ん。もちろん、いいにきまってるじゃん…」


俯きつつ言うが何とも愛らしくて、キルアはその場でを抱きしめた。



「あーハズい!めちゃくちゃハズい!!…でも、よかった……。」

「私もうれしーよ、キルア。」



きつく、きつく抱きしめる。


キルアは頭一つ分小さいを抱きしめる手を緩めると、

後ろ頭と腰に手を回して、優しく唇を重ねた。も、それを笑顔で受け入れた。






雪がちらついているのに、雲の切れている部分から大きな満月が見えていた。

月光に照らされて粉雪は、蛍のごとく光り輝いていた。

回り一体雪原に囲まれた細い一本道の真ん中で、二つの影が寄り添うように、



同じ道を、歩み始めた。





































*おまけ*


「あ………。」

「ヤバイな、コレ。…戸壊しても大丈夫だったら力づくで開けるけど?」


豪雪のせいか、玄関の戸の半分が雪に埋もれていた。

オマケに凍り付いているのかよくわからないが、ドアノブが回らない。

窓は雪に備えて打ち付けてしまったので窓からは入れない。




「最初の、共同作業?」

「雪かきなんて色気ないしー!」



取りあえず、脇に落ちていたスコップ(が朝使ったものだと思われる)を使って、

氷ついた戸を力づくであけたのは、クリスマスも終わった26日の午前一時だった。



「ク…クリスマスが……終わっ……」

「また、来年お祝いすりゃいーだろ。いちいち泣くなよ。」

「いっつも七夕しかこないくせに…」

「ら、来年はクリスマスも空けるって!」

「ほんと!?キルア大好きー!」

「バッ!ハズいから飛びついてくんな!」

「誰も見てないんだからいーじゃーん」

「(年に二日といわず、毎日来たいところだけど、な。)」




きっと、一緒になってからも、こんな風に楽しく過ごせるんだろう。



キルアとなら。

















Fin...


















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